【第4回】土屋ケアカレッジカンパニー主催 特別社内研修会

<第4回>『ポジショニングスキルアップセミナー』〜ALSなどの難病患者へのポジショニング〜

2025年4月24日、「医療的ケア実施にあたっての知識と心得」をテーマとする特別社内研修会第4回目が、土屋ケアカレッジカンパニー主催により行われました。

今回は、ENテクノサービス・健康運動指導士の藤井直人氏にご登壇いただき、ALSなどの難病患者へのポジショニングについて、写真や動画を用いた実践的内容をお話しいただきました。

第4回研修会の概要

開催日:2025/4/24(木) 
内容:<第4回>『ポジショニングスキルアップセミナー』〜ALSなどの難病患者へのポジショニング〜
講師:藤井直人氏(ENテクノサービス/健康運動指導士・食生活アドバイザー)    
参加対象者:土屋グループの全メンバー(非常勤含む)

第4回研修会『ポジショニングスキルアップセミナー』の概要

<大切なこと>

(1)気がつく力

〇患者や利用者の変化
〇ベッドの角度
〇シーツのシワや被服の乱れなど

現場に行って「こんにちは」と言ったときに、「あれ?今日は違うな」ということに気付けるかどうかが大切です。

とはいえ、忙しくて時間が決まっている中で色々としなければならないことがあると、どうしてもそれがなくなってきます。

それでも利用者さんの変化や、シーツ・ベッドなどの環境に気付けるかどうかが一番大切なことです。

(2)基礎が大切

〇基礎が身に付くまで何度でも
〇応用から学ばない
〇ネットの情報が全てではない

今は携帯で勉強するのが主流なので、介護チャンネルやリハビリチャンネルをよく見られる方も多いと思います。

ただ、間違ったものや、危ないことをしている動画もあり、情報がたくさん入る分、精査する力が必要となります。
これは「全てを信用してはいけない」ということです。

また、ポジショニングやシーティング以外でも、基礎がしっかりしていないと「これは間違っている」「これは現場で使っていいのか」という判断ができません。

ですが現場で困ると応用から入る人も多いです。
ただ、ここは基礎をベースにして勉強するほうが上手くいくので、しっかり基礎を勉強してください。

(3)成功を増やしていく

〇成功したケースを共有
〇自信につながる

(4)誰でも簡単に

〇自分だけできてもダメ
〇その時だけできてもダメ
〇統一できることが重要

多職種連携という言葉があるように、誰でも簡単にできないといけません。
特に在宅は“家族がどこまでできるか”が重要です。

そのためにはヘルパーさん・訪看・リハビリが、家族でもできるような内容を考えることが必要です。
また専門用語をなるべく使わずに、伝え方を工夫することも大切です。

<環境調整能力>

(1)人は環境に影響を受けます

〇照明
〇空調
〇耳から入る音や声

たとえば寝る時の照明の具合など、それぞれの方で違います。
暑さ、寒さなど、空調の具合も人に影響を与えるので、しっかり調整することが大切です。

また、意思疎通が取れなくなって反応がない場合のある利用者さんも、ちゃんと耳は聞こえていますし、脳は反応しています。

ベッドの周りをパタパタ歩いたり、愚痴をこぼしたりなどもすべて耳に入っているので、耳から入る情報を考えることも必要です。

(2)病院や施設の質

〇患者や利用者の被覆
〇壁に貼ってある患者や利用者の写真
〇スタッフの会話

私は病院や施設に伺った際には患者さんや利用者さんを見ます。

たとえば被服の状態などですが、服がずるずると上がったまま車椅子に乗っていると「ここまで気づいてあげられていないんだな」と、病院や施設のスキル・質を図れます。

<ポスチャリング>

ポスチャリングには、ポジショニング・シーティング・スタンディングがあります。

寝たきりになるとベッド上での生活が長くなりますが、床ずれや呼吸、緊張や拘縮を何とかしようと姿勢管理するのがベッド上でのポジショニングです。

シーティングは、車いすに移乗する際や椅子に座る際などに、ずるずると滑ったり倒れたりしないよう座位姿勢を取ることをいいます。

そして、立つ際や移乗・移動する際などに立位を取ることをスタンディングといいます。

よく「ノーリフティング・ノーリフト、抱えない介護・持ち上げない介護をしましょう」と言われますが、移乗動作も全て姿勢です。

寝ていても座っていても立つのも全て姿勢が影響しているので、そうした姿勢管理をするというのがポスチャリングです。

ポイント
24時間の姿勢のマネジメントが大切です。

良い姿勢とは?

①広く支える
②安定させる
③ねじれや傾きをなくす

上記の3つが姿勢のキーになると考えます。
両足をついて、身体を真っすぐにするなどで楽な姿勢になります。

私は常々、「美しい姿勢にしてあげて下さい」という教育を受けてきましたが、寝たきりになっても動けなくなっても、服を整えたり、お化粧をしたり、髪を整えるというように、人間として美しくしてあげることが大事です。

<ALSのポジショニング>

ALSは症状や進行度合いの個人差が大きい病気です。
個別性の高いポジショニングが必要となるため、しっかりとした基礎が重要になります。

ポジショニングの基礎

(1)目的を理解する
(2)寝位置を合わせて滑らせない
(3)圧抜きの徹底
(4)クッションの入れ方
(5)評価する

(1)目的を理解する

まず、目的の理解が乏しい方が多いです。

例えばリハビリの先生がクッションの入れ方のイラストを作っても、“なぜクッションを入れなければいけないのか”という目的が分かっていない方が多いです。

<ポイント>
ポジショニングの目的は、クッションの入れ方を学ぶことではありません。
 ①褥瘡(床ずれ)の防止
 ②呼吸や循環機能の維持・改善
 ③摂食・嚥下機能の維持・改善
 ④筋緊張の緩和と拘縮の防止

①褥瘡(床ずれ)の防止

褥瘡の原因として、圧・ずれ・むれ・栄養状態の4つがあります。
まずは圧の軽減、圧抜きが大切になりますが、圧のチェックは手のひらで行います。

お尻など体の下に手のひらを入れて、指が曲がらなければ圧が高い箇所となっています。
利用者さんや患者さんに触らせてもらい、重たいか重たくないかのチェックをすることが大切です。

その他に、マイクロクライメット(皮膚の表面温度)が高くなると、褥瘡リスクを高めるので対策が必要になります。

<ワンポイントアドバイス~褥瘡とスキンテア~
日本の褥瘡ナンバー1は20年前から変わらず仙骨ですが、第2は踵(かかと)になりました。

踵の褥瘡の原因として、掛け布団とずれの2つが挙げられています。利用者さんを動かした時は、すべて摩擦とずれが生じています。

また、「スキンテア」(皮膚が裂ける)も重要です。
皮膚が弱っていると、医療用テープをはがしたり、パジャマや服を脱がしたりする際にも皮膚が裂けてしまいます。

②呼吸や循環機能の維持・改善

患者さんや利用者さん、高齢の方は特に呼吸が浅くなっていて、ぼーっとしている方も多くなります。
酸素がしっかり脳に入らず覚醒しないためですが、そういう方ほど認知が進んでしまいます。

そのため深い呼吸が大切ですが、胸郭が広がっている姿勢だと呼吸が浅くなるので、胸郭の位置が重要になります。
また、筋緊張や拘縮が高い方も呼吸が浅い傾向にあります。

ベッド上でも車椅子でも、姿勢は呼吸に影響を及ぼします。

<ワンポイントアドバイス>~呼吸と背上げ~
背上げの角度の基本は5~15度です。
20度まではいかないでいいと思いますが、その辺りまでは背上げをして呼吸を楽にしてあげて下さい。
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背を上げることで内臓がへその方に下り、横隔膜が動かしやすくなるので呼吸が少し楽になります。

介護ベッドの角度計や、ベッドのボードにマスキングテープを貼るなどで利用者さんの角度を統一することも大切です。

③摂食・嚥下機能の維持・改善

摂食・嚥下機能については、まず食べる姿勢がポイントとなります。
そのため、利用者さんの姿勢を勉強することが必要ですが、もう一つが介護スキルを上げることです。

首の角度の他に、手・腕も重要になります。食べる時に手・腕を支えると飲み込みやすくなります。

④筋緊張の緩和と拘縮の防止

ALSの方も、力はなくなって筋肉は弱ってきていますが緊張しています。
そのため様々な時に筋緊張が起きますが、それには重力の影響もあります。

それを抗重力筋の影響といいます。
立っていると足、腹筋、背筋、お尻の筋肉に力がずっと入っていて、抗重力筋が働いているということになります。

伏臥位ではマットレスに当たっている前側に力が入り、緊張します。
上向きで寝ると背面にずっと力が入ります。

寝たきりの方で同じ姿勢をずっとしていると、同じ箇所の筋肉がずっと筋緊張していることになるので、体位変換は褥瘡管理のためだけでなく、筋緊張の緩和や拘縮の防止のためにも必要です。

(2)寝位置を合わせて滑らせない

日本の介護保険のベッドは、身長170センチ前後用に作られているので、170センチくらいの利用者さんでは、きちんと寝ると合いますが、女性や小柄な方ではどうしても滑っていきます。

そのため、まずはベッドの背上げ軸(上がったり下がったりするところ)を見つけ、利用者さんの腰骨から10センチ下側をその軸に合わせます。

腰に合わせても膝が合っていなければ足上げ機能を使っても滑るので、滑らせない工夫が必要になります。

その場合、お尻の骨の手前にクッションを入れて背上げをするとずれにくくなるので、食事時など背上げが必要な際にはそのような対策が大切です。

(3)圧抜きの徹底

現場では圧抜きができていないことが多いです。
圧抜きは、背上げ・背下げの時、クッションを入れたり外したりする時、身体を動かした時に行います。

方法としては、身体をいったん離したり、ナイロンのグローブを使って圧抜きをして、身体をなでていきますが、他にもマットレスをへこます方法があります。

身体を触られたくない利用者さんでは、こうした圧抜きが活用できます。
また、圧抜きは頭から足の方にしていくのがポイントです。

体を触る時、拭く時もすべて頭から足の方に触っていくとよいです。

(4)クッションの入れ方

クッションの入れ方で一番重要なのは数を減らすことです。
クッションがあればあるほど混乱しますし、大変です。

そのためには、できるだけ大きめのクッションを活用すればよいです。広く支えることができ、安定させることができます。

種類も決まった形を選ぶことで統一しやすくなります。

<ポイント>
①数を減らす
②大きいクッション
③種類を減らす

上半身
大きめの枕で首や肩をしっかり支えることが大切です。首・肩・肘がしっかりとクッションに乗っているかをチェックしてください。

肩や首の力が抜けると、手が自然と伸びやすくなったり緩んだりすることにつながります。

下半身
下肢は太ももをしっかり支えることで足全体がコントロールしやすくなります。

お尻の付け根から下肢全体を広く支えるようにし、特に緊張のある場合は太ももをしっかり支えるようにクッションを入れて下さい。

(5)評価する

アライメントとしては、利用者さんの足元から姿勢を見て下さい。

正中位になればなるほど人は楽な姿勢になるので、ねじれがどこにあるかを見るのがいいと思います。
写真を撮って線を引くのがアライメントを見やすくするポイントです。

また手足が冷たくなっていないか、呼吸はどうかなどのチェックも評価の一つだと思います。

<ポイント>
①アライメントをみる……足側から見て線を引いてみる
②顔の周りをチェック……苦しそうな表情をしていないか
③血流……手足は冷たくないか
④呼吸……お腹が動いているか

<身体サポート>

身体サポートには、直接的サポートと間接的サポートの2つがあります。

直接的サポートは、クッションを直接身体にあてがうことで、間接的サポートはクッションをマットレスの下から差し込む方法です。

クッションを直接身体の下に入れられると不快や痛みを感じる方には間接的サポートもいいと思いますが、気を付けなければいけないのは関連職種による統一が大切だということです。

そうしないと、別のスタッフが入った時に混乱するので、しっかり検討してから行う必要があります。

<その他、あれこれ>

足底サポート
ALSの方では特に、足の裏がセンサーとなっているため重要です。自分が今どこにいるのか、足が伸びているのか伸びていないのか、といった感覚を刺激することが大切です。

▸臀部の圧分散
仙骨部位に、三角クッションを「ハの字」で使用してください。

▸仰臥位のポジショニング
側臥位も支えるところは他の体位と同じです。首・肩・ひじ・太もも・足の裏まで全体的に、クッション等を広く設置してください。

▸半側臥位
30度未満の側臥位を半側臥位といいますが、これは楽な姿勢です。呼吸も楽です。

▸姿勢と反応
姿勢は日常生活で大切です。
肩甲骨を寄せると胸郭が広がりますが、パソコンを打つと胸郭は丸くなります。

内股になると背筋が延びて、ガニ股になると丸くなります。
足を引くと背筋が延び、足を投げだすと丸くなります。

足を広げて寝ると丸くなりやすくなって、骨盤も後傾して胸郭も狭くなり、それで呼吸が苦しくなります。

<さいごに>

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介護サイト「アメポケ」http://amepocke.jp/lp

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