介護の知識シリーズ《Ⅰ》医療的ケアの基礎知識|第5回/全8回
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気管カニューレ内吸引は、口腔内・鼻腔内の吸引と比べて、より慎重な操作が求められるケアです。気管カニューレのつくり(カフやサイドチューブ)と、介護職員が吸引できる範囲を正しく理解しておきましょう。
この記事のポイント
- 介護職が吸引できるのは気管カニューレの中だけで、先端を越えてはいけません
- カフは気管の内側に密着させる風船で、空気量の調整は医療職が行います
- 気管カニューレ内吸引は、口腔内・鼻腔内と違い無菌的な操作が必要です
気管カニューレ内吸引とは?
気管カニューレ内吸引とは、気管切開をした方ののどに入っている気管カニューレの中にたまった痰を、吸引器と吸引カテーテルを使って体の外に吸い出すことです。
気管カニューレ内部の喀痰吸引は、一定の研修と認定を受けた介護職員などが行える、5つの医療的ケアの一つです。喀痰吸引そのものの基本は、喀痰吸引とは?で解説しています。
出典:e-Gov法令検索「社会福祉士及び介護福祉士法施行規則」第1条
気管切開と気管カニューレ
気管切開は、首の前から気管に穴をあけ、そこに気管カニューレという管を入れて空気の通り道を確保する方法です。
気管切開は、呼吸の障害が進んで自力で十分に呼吸ができなくなった場合や、飲み込む機能の障害が強く、痰が気道にたまりやすい場合など、さまざまな理由で行われます。

気管切開では、声帯より下にある気管に手術で穴(気管切開孔)をあけ、その穴に気管カニューレを入れます。人工呼吸器を使う方は、この気管カニューレに人工呼吸器をつなぎます。
吸引できる範囲は気管カニューレの中だけ
介護職員が吸引できるのは気管カニューレの内部までで、カニューレの先端を越えて吸引カテーテルを入れてはいけません。
厚生労働省の研修テキストでは、吸引カテーテルは気管カニューレの中に入れ、カニューレの先端から入ってきた痰を吸引するものとされています。カテーテルを入れる長さは、気管カニューレの内腔の長さ(7〜10cm程度)が目安とされています。

ただし、気管カニューレの長さは利用者によって違います。医師の指示書などで、利用者が使っているカニューレの長さを吸引の前に必ず確認し、それより奥にカテーテルが入らないように気をつけましょう。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」気管カニューレ内部吸引手順/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引
入れる長さがずれないようにするコツ
カテーテルを持つ位置を少しずつ変えながら入れていくと、何cm入れたのかが分からなくなりがちです。あらかじめ確認した長さの位置でカテーテルを持ち、途中で持ち替えずに吸引するなど、決められた長さを守れるように工夫しましょう。具体的な方法は、事業所の手順書と指導看護師の指導に従ってください。
カニューレの先端を越えるとどうなるの?
カテーテルがカニューレの先端を越えて気管の粘膜に触れると、強い咳込みを引き起こします。また、カテーテルが当たることで粘膜を傷つけることもあります。利用者の苦痛や危険につながるため、入れる長さを必ず守って吸引しましょう。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」気管カニューレ内部吸引手順/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引
気管カニューレのつくり(カフ・サイドチューブ)
気管カニューレには、気管の内側に密着させる「カフ」と、カフの上にたまった分泌物を吸い出す「サイドチューブ」がついているものがあります。
気管カニューレにはいくつかの種類があり、すべてのカニューレにカフやサイドチューブがついているわけではありません。ここでは、カフとサイドチューブがついたタイプを例に説明します。
カフの役割

カフは、気管カニューレの先のほうについている風船のような部分です。空気を入れてふくらませることで、気管の内側の壁に密着させて固定します。また、口や鼻のほうから垂れ込んできた分泌物が、気管の奥に入り込むのを防ぐ役割もあります。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」呼吸について
カフエアチューブ
カフには、空気を入れるための細い管(カフエアチューブ)がつながっていて、ここから空気を入れてカフをふくらませます。
カフの空気量の調整は、介護職員が行える5つの行為には含まれていないため、介護職員は行いません。カフの状態について、事業所や指示書で決められた観察の項目がある場合はそれに従い、吸引の前後でいつもと違う様子に気づいたら、すぐに看護職員に報告しましょう。
出典:e-Gov法令検索「社会福祉士及び介護福祉士法施行規則」第1条/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引
サイドチューブ

口や鼻から垂れ込んだ唾液などの分泌物や、うまく飲み込めなかった食べ物の残りは、ふくらんだカフの上にたまります。サイドチューブは、カフの上に開いた管で、ここから吸引すると、カフの上部にたまった分泌物を吸い出すことができます。
厚生労働省の研修テキストでは、肺炎の予防のため、サイドチューブがある場合はサイドチューブからの吸引も行うこととされています。気管カニューレ内吸引の前後にサイドチューブから吸引することが望ましい、とも示されています。吸引の方法や頻度は、医師の指示書と手順書に従います。唾液や痰の量によって、サイドチューブからの吸引の回数は変わります。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」気管カニューレ内部吸引手順
気管カニューレ内吸引は無菌的に
気管から先は原則として無菌の状態のため、気管カニューレ内吸引では、口腔内・鼻腔内の吸引と違って無菌的な操作が必要です。
体のつくりとして、鼻や口からのどまでの上気道には常在菌がいますが、気管から肺までの下気道は、原則として無菌の状態です。そのため、口腔内・鼻腔内の吸引は清潔に、気管カニューレ内の吸引は無菌的に行うことが求められます。
厚生労働省の研修テキストでは、滅菌されたカテーテルの先端から約10cmの部分は、入れる前にほかの物に触れさせないよう注意することとされています。手洗いのあと使い捨て手袋をつけて行い、カテーテルの先端に触れなければ、清潔なセッシ(ピンセット)での操作も可能とされています。
物品の使い方は事業所や在宅の環境によって違うこともあります。事業所の手順書に従い、標準予防策(スタンダードプリコーション)を守って、今ある物品と環境の中で、できるだけ清潔に行うことを心がけましょう。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」気管カニューレ内部吸引手順
吸引時間と吸引圧の目安
気管カニューレ内吸引は、1回の吸引をできるだけ短く、決められた吸引圧で行います。
厚生労働省の研修テキストでは、気管カニューレ内吸引の1回の吸引時間は「10秒以内」(第Ⅲ章 演習)、「15秒以内」(第三号研修テキスト)とされています。吸引圧は、第Ⅲ章 演習では「20kPa以下」、第三号研修テキストでは「20〜26kPa以下」とされています。
資料によって目安に幅があるため、時間はできるだけ短く、吸引圧は低いほうを基本に考え、必ず医師の指示書と事業所の手順書で決められた値を守りましょう。
吸引中に顔色が悪くなる、苦しそうにするなど、いつもと違う変化があれば、すぐに吸引をやめて医療職に報告します。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト 第Ⅲ章 喀痰吸引等に関する演習」/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」気管カニューレ内部吸引手順
人工呼吸器を使っている方の場合
人工呼吸器を使っている方の気管カニューレ内吸引では、吸引の前に人工呼吸器の回路のコネクターを外し、吸引が終わったら確実に元に戻す手順が加わります。つなぎ忘れると低酸素の状態につながるため、手順を一つずつ確認しながら行います。
なお、第1号・第2号研修では、人工呼吸器を使っている方への実地研修は別途行うこととされています。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」気管カニューレ内部吸引手順/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引/厚生労働省「喀痰吸引等研修の基本研修・演習・実地研修の内容」
気管切開後のコミュニケーション
気管切開をすると声が出しにくくなるため、文字盤や視線入力の装置など、声以外のコミュニケーション方法も大切になります。
私たちは、吐く息で声帯をふるわせて声を出しています。しかし、気管カニューレは声帯より下に入っているため、吐く息が声帯を通らなくなり、一般に声を出すことが難しくなります。
そのため、気管切開をしたあとは、声以外のコミュニケーション方法を取り入れていくことになります。たとえば、文字盤や、視線の動きで文字を入力して読み上げる装置などが使われることがあります。
声を出す機能が保たれている方の場合、声を出せることがあります。方法としては、カフの空気の量を減らす、スピーキングバルブという器具を使う、発声ができるように工夫されたカニューレ(スピーチカニューレ)を使う、などがあります。こうした調整や器具の判断は、医師や看護職員が行います。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」呼吸について
気管カニューレ内吸引を行うための条件
気管カニューレ内吸引は医行為にあたるため、介護職員が行うには研修・認定・事業者登録などの条件を満たす必要があります。
実務者研修の修了だけでは、医療的ケアは行えません
実務者研修や基本研修を修了しただけでは、現場で喀痰吸引や経管栄養を行うことはできません。業務として行うには、次の4つがそろう必要があります。
- 基本研修を修了する
実務者研修の「医療的ケア」(講義50時間+演習)を修了している場合、喀痰吸引等研修の基本研修は履修免除の対象になります。 - 実地研修を受ける
指導看護師などの指導と評価を受けながら、実際の利用者に対して所定の回数を行います。 - 都道府県の認定を受ける
「認定特定行為業務従事者」として都道府県に申請し、認定証の交付を受けます。 - 勤務先が事業者登録をしている
喀痰吸引等を行う事業所は、事業所ごとに都道府県へ登録している必要があります(登録特定行為事業者)。
介護福祉士の場合は、実地研修を修了したあとに社会福祉振興・試験センターへ登録し、登録証に行為が付記される流れになります。この場合、事業所は「登録喀痰吸引等事業者」の登録が必要です。なお、認定証を持っている介護福祉士は、認定特定行為業務従事者として行うこともできます。
出典:厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」/千葉県「喀痰吸引等研修 登録研修機関」/宮城県「介護職員等による喀痰吸引等の制度について」/大阪府「介護福祉士が喀痰吸引等を行うまでの流れ」
まとめ
気管カニューレ内吸引は専門性の高いケアだからこそ、正しい知識と手順を身につけることが大切です。
医行為とは、「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」とされています。気管カニューレ内吸引も医行為の一つであり、決められた範囲と手順を守ることが利用者の安全につながります。
専門性の高い内容だからこそ、誰もが行えるケアではありません。研修と認定を経て、医療的ケアが必要な方の生活を支えられることは、介護職員にとって大きなやりがいになるはずです。利用者に合った方法を考えながら、よりよい医療的ケアを提供していきましょう。
よくある質問
Q. 気管カニューレが抜けてしまったときは、どうすればいいですか?
A. すぐに看護職員や医師に連絡し、事前に決められている緊急時の対応手順に従います。介護職員が気管カニューレを入れ直すことはできません。いざというときに慌てないよう、緊急時の連絡先と対応の流れを日ごろから確認しておきましょう。
Q. サイドチューブと気管カニューレ内は、どちらを先に吸引しますか?
A. 厚生労働省の研修テキストでは、気管カニューレ内吸引の前後にサイドチューブから吸引することが、肺炎の予防のために望ましいとされています。実際の順番や回数は、医師の指示書と事業所の手順書に従ってください。
Q. 気管カニューレ内吸引では、滅菌手袋が必要ですか?
A. 厚生労働省の第三号研修テキストでは、手洗いのあと使い捨て手袋をつけて行い、カテーテルの先端に触れなければ、清潔なセッシでの操作も可能とされています。どの物品を使うかは、事業所の手順書に従ってください。


