介護の知識シリーズ《Ⅰ》医療的ケアの基礎知識|第2回/全8回
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喀痰吸引(かくたんきゅういん)は、一定の研修と認定を受けた介護職員などが行える医療的ケアの一つです。「なぜ必要なの?」「いつ吸引すればいいの?」といった基本を押さえておくと、口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内の吸引それぞれの手順も理解しやすくなります。
この記事のポイント
- 喀痰吸引は、自力で出せない痰などを吸引器で体の外に吸い出すケアです
- 吸引は時間を決めて行うものではなく、必要なときに本人の同意を得て行います
- 吸引で取れた痰の色や粘り気は、体調の変化を知る大切な手がかりです
喀痰吸引とは?
喀痰吸引とは、口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部にたまった痰などを、吸引器と吸引カテーテルを使って体の外に吸い出すことです。
一般的に「たん」と呼ばれるものと「喀痰」とでは、言葉の意味が少し違います。喀痰吸引でいう喀痰には、次の3つが含まれます。
- 唾液(つば)
- 鼻汁(はなみず)
- 狭い意味での痰(肺や気管から出てくる、ほこりや細菌などを含んだ粘液)

喀痰吸引は、これらをまとめた分泌物を吸い出すケアです。介護職員が行える喀痰吸引は、口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部の3種類に限られています。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引/e-Gov法令検索「社会福祉士及び介護福祉士法施行規則」第1条
なぜ喀痰吸引が必要なのか
飲み込む力や咳をする力が弱くなり、自分で痰を出せない方にとって、喀痰吸引は呼吸を楽にし、危険を防ぐために欠かせないケアです。

私たちは、鼻や口から空気と一緒に、ほこりなどの異物も吸い込んでいます。異物は鼻毛などで取り除かれ、それでも入り込んだものは、気管の表面をおおう粘液にくっつきます。気管の表面には細かい毛(線毛)があり、異物を含んだ粘液を口のほうへ送り出します。
送り出された粘液は、咳やくしゃみで体の外に出たり、ふだんは意識しないうちに飲み込まれたりしています。こうした仕組みのおかげで、私たちは痰がたまっても自然に処理できているのです。
ところが、次のような方は、この仕組みがうまく働かず、自分で痰を出すことが難しくなります。
- 意識障害や脳の障害などで、反射的な飲み込みや弱い咳しかできない方
- 全身の機能が低下し、ベッドの上で過ごす時間が長い高齢の方
- 神経や筋肉の病気で、飲み込む機能や呼吸の機能が低下している方
- 気管切開をしている方や、人工呼吸器を使っている方
痰がたまったままになると、気道が狭くなって空気の通りが悪くなり、息苦しさや呼吸の悪化につながります。そこで、吸引器を使って痰を体の外に吸い出す喀痰吸引が必要になります。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」呼吸について
いつ吸引すればいいの?
喀痰吸引は、時間を決めて行うものではありません。必要なときに、本人に説明して同意を得てから行います。
厚生労働省の研修テキストでは、吸引は必要なときのみ行うものとされています。吸引のタイミングの目安は、次のようなときです。
- 本人が希望したとき(ナースコールや表情などで伝えられたとき)
- 痰がらみのゴロゴロという音が聞こえるときや、口の中から唾液があふれているとき
- 人工呼吸器のアラームが鳴ったときや、酸素飽和度(SpO2)が下がったとき
このようなときは、本人に説明し、同意を得たうえで(インフォームド・コンセント)吸引を行います。
反対に、「手が空いたから今のうちに」「勤務交代の前に次の人の仕事を減らしておこう」といった、介護する側の都合で吸引してはいけません。喀痰吸引は呼吸を楽にし、危険を防ぐために行うものですが、吸引している間は空気を吸いにくくなるなど、利用者の体にも負担がかかります。吸引が長引くと、低酸素の状態になるおそれもあります。
吸引は医師の指示にもとづいて行います。指示の範囲の中で、その日の利用者の体調に合わせて、吸引のタイミングや時間を見極める感覚も少しずつ身につけていきましょう。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引
吸引で取れた痰は体調を知る手がかり
吸引で取れた痰の色・におい・粘り気を観察して記録することは、利用者の体調管理にとても大切です。
ふだんの痰は、無色透明からやや白っぽい色で、においはなく、やや粘り気があります。痰の様子がいつもと違うときは、体調の変化のサインかもしれません。
| 痰の様子 | 考えられること |
|---|---|
| 無色透明〜やや白っぽい・においなし・やや粘り気がある | ふだんの状態 |
| 濁りが強く、黄色や緑色っぽい・粘り気が強い | 細菌などに感染している可能性 |
| 硬く、取りにくい | 感染で粘り気が増している、または体の水分が足りていない可能性 |
| 赤い(血が混じっている) | 少量の血が混じる程度なら問題ないことが多いとされます。赤い痰が付着する程度以上に引けてくるときや、真っ赤でさらさらした痰のときは、急いで対応が必要な状態 |
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」呼吸について
ただ吸引するのではなく、取れた痰の量や色、粘り気を観察し、記録に残しておきましょう。いつもと違う様子に気づいたら、すぐに看護職員などの医療職に報告することが大切です。
感染予防の基本
喀痰吸引は医療的ケアなので、標準予防策(スタンダードプリコーション)を守り、感染を広げないように行うことが大切です。
標準予防策とは、すべての人の血液や体液、痰や唾液などの分泌物を、感染の可能性があるものとして扱う考え方です。手洗いや手袋、マスクなどの防護具を使って、感染の広がりを防ぎます。吸引の前後には必ず手洗いをしましょう。
また、体の中は場所によって清潔さが違います。鼻や口からのど(喉頭)までの上気道には常在菌がいますが、気管から肺までの下気道は、原則として無菌の状態です。そのため、口腔内・鼻腔内の吸引は清潔に、気管カニューレ内の吸引は無菌的に行う必要があります。
介護職員も、利用者に感染を広げないこと、利用者から感染をもらわないことの両方を意識して、感染対策に取り組んでいきましょう。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引
介護職が喀痰吸引を行うための条件
介護職員が喀痰吸引を行うには、研修の修了に加えて、実地研修・都道府県の認定・事業者登録が必要です。
喀痰吸引は医行為にあたるため、誰でも行えるわけではありません。行える範囲も決まっていて、口腔内・鼻腔内の吸引は咽頭の手前までが限度です。くわしくは医療的ケアとは?で解説しています。
実務者研修の修了だけでは、医療的ケアは行えません
実務者研修や基本研修を修了しただけでは、現場で喀痰吸引や経管栄養を行うことはできません。業務として行うには、次の4つがそろう必要があります。
- 基本研修を修了する
実務者研修の「医療的ケア」(講義50時間+演習)を修了している場合、喀痰吸引等研修の基本研修は履修免除の対象になります。 - 実地研修を受ける
指導看護師などの指導と評価を受けながら、実際の利用者に対して所定の回数を行います。 - 都道府県の認定を受ける
「認定特定行為業務従事者」として都道府県に申請し、認定証の交付を受けます。 - 勤務先が事業者登録をしている
喀痰吸引等を行う事業所は、事業所ごとに都道府県へ登録している必要があります(登録特定行為事業者)。
介護福祉士の場合は、実地研修を修了したあとに社会福祉振興・試験センターへ登録し、登録証に行為が付記される流れになります。この場合、事業所は「登録喀痰吸引等事業者」の登録が必要です。なお、認定証を持っている介護福祉士は、認定特定行為業務従事者として行うこともできます。
出典:厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」/千葉県「喀痰吸引等研修 登録研修機関」/宮城県「介護職員等による喀痰吸引等の制度について」/大阪府「介護福祉士が喀痰吸引等を行うまでの流れ」
上手に吸引するためのポイント
喀痰吸引では、適切なタイミングで、必要な量を、できるだけ短い時間で安全に吸引することが大切です。
喀痰吸引は、痰を取り除いて呼吸を楽にするために行います。ただ、カテーテルを鼻や口から入れることや、吸引中に空気を吸いにくくなることから、不快感や苦痛といった負担もともないます。
それでも、利用者は私たち介護職員を信頼して、吸引を受け入れてくださいます。その信頼に誠実に応えるためにも、適切なタイミングで、正しい手技で、安全かつ清潔に、1回の吸引で十分な量を取れるように心がけましょう。
とはいえ、吸引の時間を長くすると呼吸の状態が悪くなるため、避けなければなりません。1回で効率よく吸引するためのコツとして、研修テキストでは次の方法が紹介されています。
- カテーテルを、こよりをよるように左右に回しながらゆっくり引き抜く
それぞれの利用者に合った方法を探しながら、よりよい医療的ケアを目指していきましょう。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」口腔・鼻腔吸引手順
吸引の種類別にくわしく知る
介護職員が行える喀痰吸引の手順と注意点は、次のページで種類別に解説しています。
よくある質問
Q. 喀痰吸引の回数や間隔に決まりはありますか?
A. 決まった回数や間隔はありません。厚生労働省の研修テキストでは、吸引は時間を決めて行うものではなく、必要なときのみ行うものとされています。医師の指示の範囲で、利用者の様子を見ながら判断します。
Q. 吸引圧はどのくらいにすればいいですか?
A. 厚生労働省の第三号研修テキストでは、口腔内・鼻腔内の吸引は20kPa以下、気管カニューレ内の吸引は20〜26kPa以下が目安とされています。実際には、医師の指示書と事業所の手順書で決められた吸引圧を守ります。
Q. 痰が硬くて、なかなか取れないときはどうすればいいですか?
A. 痰が硬いときは、感染や体の水分が足りていないことが考えられます。自己判断で吸引の時間を延ばしたり、何度も繰り返したりせず、痰の様子を記録して看護職員などの医療職に相談しましょう。


