介護の知識シリーズ《Ⅰ》医療的ケアの基礎知識|第1回/全8回
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「医療的ケア」という言葉は、介護や教育、障害福祉の現場でよく使われます。ただ、法律や現場によって指す範囲が少しずつ違うため、「介護職はどこまでできるの?」「実務者研修を修了すればできるの?」と迷う方も多いのではないでしょうか。
このページでは、医療的ケアの基本の意味と、介護職員が行える行為と範囲を紹介します。あわせて、法律で認められるまでの経緯や、実際に業務として行えるようになるまでの流れを、厚生労働省の資料をもとにまとめます。
この記事のポイント
- 介護職が行える医療的ケアは、喀痰吸引と経管栄養の5つの行為です
- 口腔・鼻腔の吸引は咽頭の手前まで、など行える範囲が決まっています
- 実務者研修の修了だけでは実施できず、実地研修と認定・登録が必要です
医療的ケアとは?基本の意味
医療的ケアとは、喀痰吸引や経管栄養など、日常生活を送るうえで継続的に必要となる医療行為のことです。
病気を治すために医師が行う「治療」とは区別して、生活の場で毎日のように必要になるケアを指す言葉として、在宅や学校、福祉の現場で使われてきました。
医療的ケアは法律でも使われている言葉です。たとえば「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」では、医療的ケアを「人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為」と定義しています。
出典:衆議院「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(令和3年法律第81号)
一方、介護職員が行える医療的ケアについては、社会福祉士及び介護福祉士法とその施行規則で、行える行為が具体的に定められています。くわしくは次の章で紹介します。
医療ケアと医療的ケアの違い
「医療ケア」は、医療的ケアのような法律上の定義は見当たらず、医療職が行う処置全般を広く指す言葉として使われることが多く、人によって指す範囲がさまざまです。
これに対して「医療的ケア」は、生活の場で継続的に必要となる医療行為(喀痰吸引や経管栄養など)を指す言葉として、法律や行政の資料でも使われています。このシリーズでは、介護職員が行える医療的ケアを中心に解説していきます。
医行為ができる人は?
喀痰吸引や経管栄養は「医行為」にあたります。医行為とは、厚生労働省の通知で「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」とされているものです。
出典:厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)」(令和4年12月1日 医政発1201第4号)
医行為を仕事として行えるのは、原則として医師です(医師法第17条)。看護師は、保健師助産師看護師法にもとづき、医師の指示のもとで「診療の補助」として医行為を行います。介護職員は、この後で説明する研修・認定・登録の仕組みを通じて、決められた行為に限って行えるようになっています。
介護職が行える医療的ケアは5つ
介護職員などが行える医療的ケアは、喀痰吸引3種類と経管栄養2種類の、あわせて5つの行為です。
社会福祉士及び介護福祉士法では、介護福祉士の業務の一つが定められています。それが「喀痰吸引その他のその者が日常生活を営むのに必要な行為であつて、医師の指示の下に行われるもの」です。その具体的な行為は、施行規則第1条で次の5つとされています。
| 行為 | 範囲・ポイント | くわしい解説 |
|---|---|---|
| ①口腔内の喀痰吸引 | 咽頭の手前までを限度とします | 口腔内吸引 |
| ②鼻腔内の喀痰吸引 | 咽頭の手前までを限度とします | 鼻腔内吸引 |
| ③気管カニューレ内部の喀痰吸引 | 気管カニューレの先端を越えて吸引しません | 気管カニューレ内吸引 |
| ④胃ろう又は腸ろうによる経管栄養 | 胃ろう・腸ろうの状態に問題がないかの確認は、医師または看護職員が行います | 胃ろう・腸ろう |
| ⑤経鼻経管栄養 | 栄養チューブが正確に胃の中に入っていることの確認は、医師または看護職員が行います | 経鼻経管栄養 |
出典:e-Gov法令検索「社会福祉士及び介護福祉士法」/e-Gov法令検索「社会福祉士及び介護福祉士法施行規則」第1条/厚生労働省「今回の法改正で実施可能となった医行為の範囲」(施行通知 第2-1 喀痰吸引等の範囲)/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引
範囲を超える行為は行えません
5つの行為であっても、決められた範囲を超えることはできません。たとえば、咽頭より奥の吸引や、気管カニューレの先端を越える吸引は行えません。また、気管カニューレのカフの空気量の調整や、胃ろうカテーテルの交換なども、介護職員が行える5つの行為には含まれていません。
「どこまでがOKで、どこからがNGか」を正しく理解しておくことが、利用者の安全を守る第一歩です。それぞれの行為のくわしい範囲は、上の表のリンク先で解説しています。
介護職が医療的ケアを行えるようになった経緯
2011年の法改正により、2012年4月から、研修を修了して認定を受けた介護職員などが、一定の条件のもとで喀痰吸引等を行えるようになりました。
喀痰吸引や経管栄養は医行為にあたるため、もともとは医師や看護職員、そしてご家族が行うものとされてきました。しかし、退院後に在宅で暮らす方や、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難病、脳血管疾患の後遺症などで、医療的ケアが必要な方が増えてきました。医療職が常にいない生活の場でも、ケアが必要な場面は時間を選ばずに訪れます。
そこで、2003(平成15)年には、在宅のALSの方に対する家族以外の者によるたんの吸引が、一定の条件のもとで「当面のやむを得ない措置」として認められました。その後も、盲・聾・養護学校(現在の特別支援学校、2004年)、在宅のALS以外の方(2005年)、特別養護老人ホーム(2010年、一部の行為)と、通知によって順次認められていきました。
出典:厚生労働省「在宅及び養護学校における日常的医療の医学的・法律学的整理に関する研究会」資料(日本ALS協会 意見書)/厚生労働省「介護現場等におけるたんの吸引等を巡る現状」
ただし、これらは法律で位置づけられたものではなく、一定の条件を満たす場合に違法とはしないという「実質的違法性阻却」という考え方による運用でした。
そこで、介護職員などが法律にもとづいて医療的ケアを行えるよう、2011(平成23)年に「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」が成立しました。この法律によって、社会福祉士及び介護福祉士法が改正されています。施行は一部を除き2012(平成24)年4月1日で、介護福祉士については2016(平成28)年4月1日から施行されています。
出典:厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」/香川県「喀痰吸引等の制度について」
医療的ケアを行うための研修は3種類
喀痰吸引等研修には、不特定多数の方を対象とする第1号・第2号研修と、特定の方を対象とする第3号研修があります。
喀痰吸引等研修は、講義と演習からなる「基本研修」と、実際の利用者に対して行う「実地研修」で構成されています。どの研修を受けるかによって、行えるようになる行為や対象者が変わります。
| 研修 | 対象 | 基本研修 | 実地研修 |
|---|---|---|---|
| 第1号研修 | 不特定多数の方 | 講義50時間以上+各行為の演習(各5回以上)+救急蘇生法の演習(1回以上) | 5つの行為すべて(口腔内10回以上、ほかの行為は各20回以上) |
| 第2号研修 | 不特定多数の方 | 第1号研修と同じ | 一部の行為(厚生労働省の資料では、口腔内・鼻腔内の喀痰吸引、胃ろう又は腸ろうによる経管栄養) |
| 第3号研修 | 特定の利用者 | 講義8時間+演習1時間 | その利用者に必要な行為(指導者の評価で問題がないと判断されるまで) |
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修の基本研修・演習・実地研修の内容」/厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」重度障害児・者等の地域生活等に関する講義
第1号・第2号研修は、特別養護老人ホームなど多くの利用者に対応する事業所の職員に向いています。第3号研修は、ALSなどの重度障害のある方のように、特定の利用者との個別の関係性が重視されるケースを想定した研修です。第3号研修の講座については、喀痰吸引等研修(第3号研修)のページをご覧ください。
出典:千葉県「喀痰吸引等研修 登録研修機関」/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」Q&A
実務者研修の「医療的ケア」との関係
介護福祉士実務者研修のカリキュラムには、「医療的ケア」の科目(講義50時間)が含まれており、講義とは別に演習も修了する必要があります。
出典:厚生労働省 社援基発1104第1号「実務者研修における『他研修等の修了認定』の留意点について」
実務者研修で医療的ケアを修了した方は、喀痰吸引等研修の基本研修(講義・演習)について履修免除を受けることができます。ただし、実地研修は別に受ける必要があります。
実務者研修の医療的ケアで学ぶ内容や演習の回数については、実務者研修の医療的ケアとは?でくわしく解説しています。
実務者研修を修了しただけでは医療的ケアはできません
実務者研修や基本研修を修了しただけでは、現場で喀痰吸引や経管栄養を行うことはできません。
医療的ケアは、研修の修了がゴールではありません。実地研修で、実際の利用者に対して手順どおりに行えることを確認します。そのうえで都道府県の認定を受け、さらに勤務先が事業者として登録していて、はじめて業務として行えるようになります。
実務者研修の修了だけでは、医療的ケアは行えません
実務者研修や基本研修を修了しただけでは、現場で喀痰吸引や経管栄養を行うことはできません。業務として行うには、次の4つがそろう必要があります。
- 基本研修を修了する
実務者研修の「医療的ケア」(講義50時間+演習)を修了している場合、喀痰吸引等研修の基本研修は履修免除の対象になります。 - 実地研修を受ける
指導看護師などの指導と評価を受けながら、実際の利用者に対して所定の回数を行います。 - 都道府県の認定を受ける
「認定特定行為業務従事者」として都道府県に申請し、認定証の交付を受けます。 - 勤務先が事業者登録をしている
喀痰吸引等を行う事業所は、事業所ごとに都道府県へ登録している必要があります(登録特定行為事業者)。
介護福祉士の場合は、実地研修を修了したあとに社会福祉振興・試験センターへ登録し、登録証に行為が付記される流れになります。この場合、事業所は「登録喀痰吸引等事業者」の登録が必要です。なお、認定証を持っている介護福祉士は、認定特定行為業務従事者として行うこともできます。
出典:厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」/千葉県「喀痰吸引等研修 登録研修機関」/宮城県「介護職員等による喀痰吸引等の制度について」/大阪府「介護福祉士が喀痰吸引等を行うまでの流れ」
医師の指示書と看護職員との連携
医療的ケアは、必ず医師の指示のもとで行います。事業所は、医師の文書による指示を受け、計画書や報告書を作成するなど、医療関係者と連携する体制を整えることが求められています。
医師の指示書には、どの医療的ケアを、どのような方法で行うかといった細かな内容が書かれています。医療的ケアを行う前には、必ず指示書で内容を確認しましょう。在宅では訪問看護師との連携、施設では看護職員を含む委員会などを通じた連携が大切になります。
出典:厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」重度障害児・者等の地域生活等に関する講義
医療的ケアを行うときに大切にしたいこと
医療的ケアは、利用者の信頼があってはじめて成り立つケアです。説明と同意、プライバシーへの配慮、丁寧な声かけを欠かさないようにしましょう。
ここまでは制度の話をしてきましたが、実際に医療的ケアを行うときには、手順と同じくらい大切なことがあります。
みなさんも病院で採血を受けるとき、ためらいなく腕を差し出しますよね。それは、知識と技術を身につけ、資格を持った医師や看護師が適切に医療を提供してくれるという信頼があるからです。
医療的ケアを行う介護職員も、研修を修了して認定を受けているだけでなく、医療を担う一員として倫理を守り、利用者の信頼に謙虚に、誠実に応えていく必要があります。具体的には、インフォームド・コンセント(説明と同意)、プライバシーの保護、丁寧な声かけなどです。
医療的ケアを行うときは、医療の倫理を大切にしながら、一人ひとりに合ったよりよいケアを目指していきましょう。
よくある質問
Q. 医療的ケアの認定証に有効期限はありますか?
A. 厚生労働省の研修テキストのQ&Aでは、認定証に有効期限はないとされています。ただし、認定を受けた行為の範囲でしか行えないため、新しい行為や利用者に対応する場合は、追加の研修や手続きが必要になることがあります。
Q. 認定特定行為業務従事者の認定は、どこに申請しますか?
A. 都道府県に申請します。原則として住所地の都道府県に申請し、申請書類や手続きの流れは都道府県ごとに案内されています。くわしくは、お住まいの都道府県の喀痰吸引等制度のページを確認してください。
Q. 介護福祉士なら、研修を受けなくても医療的ケアができますか?
A. いいえ、介護福祉士でも実地研修の修了などの手続きが必要です。実地研修を修了したあと、社会福祉振興・試験センターに登録して登録証に行為が付記されることで実施できるようになります。介護福祉士の登録をした時期によっては、医療的ケアの基本研修を修了していない場合もあるため、事前に確認しておきましょう。


