介護の知識シリーズ《Ⅰ》医療的ケアの基礎知識|第4回/全8回
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鼻の中の粘膜はデリケートで、血管も多いため、鼻腔内吸引では口腔内吸引以上にていねいな操作が求められます。鼻の中のつくりと、出血を防ぐカテーテルの入れ方を一緒に確認していきましょう。
この記事のポイント
- 介護職が鼻腔内を吸引できるのは、口腔内と同じく「咽頭の手前」までです
- カテーテルは、やや上向きに数cm入れたあと、鼻の底を這わせるように進めます
- 吸引は短時間で。終わったあとの違和感や不安にも、ていねいに寄り添います
鼻腔内吸引とは?
鼻腔内吸引とは、鼻の中にたまった鼻汁(はなみず)や痰を、吸引器と吸引カテーテルを使って体の外に吸い出すことです。
鼻腔内の喀痰吸引は、一定の研修と認定を受けた介護職員などが行える、5つの医療的ケアの一つです。喀痰吸引そのものの基本は、喀痰吸引とは?で解説しています。
出典:e-Gov法令検索「社会福祉士及び介護福祉士法施行規則」第1条
吸引できる範囲は「咽頭の手前」まで
介護職員が鼻腔内を吸引する場合も、吸引してよい範囲は「咽頭の手前まで」と決められています。
厚生労働省の通知では、口腔内・鼻腔内の喀痰吸引は「咽頭の手前までを限度とすること」とされています。咽頭の中の吸引は、介護職員が行える範囲には含まれていません。
出典:厚生労働省「今回の法改正で実施可能となった医行為の範囲」(施行通知 第2-1 喀痰吸引等の範囲)/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引
鼻の中のつくり

鼻腔は空気の通り道です。左右を隔てる鼻中隔(びちゅうかく)によって、右の鼻と左の鼻に分かれています。鼻中隔が左右どちらかに曲がっていると、片方の鼻が狭くなり、吸引しにくくなることがあります。
また、鼻の中には上・中・下の鼻甲介(びこうかい)というひだがあり、吸い込んだ空気から異物を取り除いたり、空気を温めたり加湿したりする働きがあります。このあたりの粘膜には細い血管が多く、出血しやすいため、カテーテルが当たらないように入れていく必要があります。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」呼吸について
鼻腔内吸引は何センチまで入れるの?
厚生労働省の第三号研修テキストでは、カテーテルがうまく入ると「8〜10cm程度挿入できます」と紹介されています。ただし、鼻の形や体格によって個人差があります。実際に入れる長さは、医師の指示書に書かれた挿入の長さを守りましょう。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」口腔・鼻腔吸引手順
鼻腔内吸引のカテーテルの入れ方
鼻腔内吸引では、陰圧をかけずにカテーテルを入れ、やや上向きに数cm進めてから、鼻の底を這わせるように奥へ進めるのが基本です。
鼻の粘膜はデリケートで出血しやすいため、安全に十分な量を吸引するには、カテーテルの操作にコツがいります。厚生労働省の研修テキストで紹介されている流れは、次のとおりです。
- 陰圧をかけない状態にする:粘膜に吸い付かないよう、カテーテルの根元を折り曲げて、圧がかからない状態でカテーテルを入れます。
- やや上向きに数cm入れる:カテーテルを鉛筆を持つように持ち、鼻の穴からやや上向きに数cm入れます。
- 下向きに変えて、鼻の底を這わせる:カテーテルの向きを下向きに変え、鼻腔の底を這わせるように咽頭の手前まで進めます。上向きのまま進めると鼻甲介に当たり、痛みや鼻出血の原因になります。
- 入りにくいときは無理をしない:入りにくい場合は無理に進めず、反対側の鼻から行います。
- 吸引しながら回して引き抜く:奥まで入ったら、折り曲げていた根元の指を緩めて陰圧をかけ、カテーテルを持った3本の指でこよりをよるように左右に回しながら、ゆっくり引き抜きます。



出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」口腔・鼻腔吸引手順/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト 第Ⅲ章 喀痰吸引等に関する演習」
吸引にかける時間と回数
鼻腔内吸引は、1回の時間をできるだけ短くし、何度も続けて行わないことが大切です。
吸引している間は空気を吸いにくくなるため、息が苦しくなります。厚生労働省の研修テキストでも、鼻腔内・口腔内の吸引はできるだけ素早く済ませることとされています。医師の指示書に吸引の時間が書かれている場合は、それを守りましょう。
1回で十分に吸引できなかった場合は、もう一度吸引することもありますが、吸引が続くと苦しくなります。続けて何度も行わず、呼吸を整えてもらってから行いましょう。再度吸引するかどうかは、呼吸の音から痰がたまっていそうか、酸素飽和度(SpO2)の値、顔色、取れた痰の量などを観察して判断することが大切です。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト 第Ⅲ章 喀痰吸引等に関する演習」/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引
利用者の違和感への対応
吸引後に「まだ何か残っている気がする」と感じる利用者には、客観的な様子を伝えながら、ていねいに声をかけましょう。
吸引後の対応に迷うときは、自己判断せずに看護職員などの医療職に相談することが基本です。痰が取り切れていない場合は、呼吸を整えてから再度吸引するか、医療職に相談します。
一方で、痰が取り切れているのに、「もっと吸引してほしい」と言われることもあります。吸引を繰り返した直後は、カテーテルが入っていた違和感も重なり、鼻にまだ何か残っているように感じることがあるからです。利用者の中には、「取らないとこれからもっと苦しくなるかもしれない」という不安を抱えている方もいます。
そんな気持ちにも寄り添いましょう。痰がたまる音がしなくなっていることや、酸素飽和度の値などの客観的な事実を伝えながら、「しっかり呼吸できていますよ」とやさしく声をかけることも大切です。それでも本人の希望が続くときは、希望を受け止めたうえで、再度吸引するかどうかを医療職と相談しましょう。
鼻腔内吸引を行うための条件
鼻腔内吸引は医行為にあたるため、介護職員が行うには研修・認定・事業者登録などの条件を満たす必要があります。
実務者研修の修了だけでは、医療的ケアは行えません
実務者研修や基本研修を修了しただけでは、現場で喀痰吸引や経管栄養を行うことはできません。業務として行うには、次の4つがそろう必要があります。
- 基本研修を修了する
実務者研修の「医療的ケア」(講義50時間+演習)を修了している場合、喀痰吸引等研修の基本研修は履修免除の対象になります。 - 実地研修を受ける
指導看護師などの指導と評価を受けながら、実際の利用者に対して所定の回数を行います。 - 都道府県の認定を受ける
「認定特定行為業務従事者」として都道府県に申請し、認定証の交付を受けます。 - 勤務先が事業者登録をしている
喀痰吸引等を行う事業所は、事業所ごとに都道府県へ登録している必要があります(登録特定行為事業者)。
介護福祉士の場合は、実地研修を修了したあとに社会福祉振興・試験センターへ登録し、登録証に行為が付記される流れになります。この場合、事業所は「登録喀痰吸引等事業者」の登録が必要です。なお、認定証を持っている介護福祉士は、認定特定行為業務従事者として行うこともできます。
出典:厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」/千葉県「喀痰吸引等研修 登録研修機関」/宮城県「介護職員等による喀痰吸引等の制度について」/大阪府「介護福祉士が喀痰吸引等を行うまでの流れ」
よくある質問
Q. 鼻腔内吸引で鼻血が出たときは、どうすればいいですか?
A. 吸引を中止し、出血の量や様子を確認して、すぐに看護職員などの医療職に連絡します。厚生労働省の研修テキストでは、赤い痰が付着する程度以上に引けてくる場合は、急いで対応が必要な状態とされています。
Q. 吸引を嫌がる利用者には、どう対応すればいいですか?
A. 吸引の必要性をわかりやすく説明し、同意を得てから行うのが基本です。無理に行うことはせず、タイミングを変える、声かけを工夫するなどしても難しい場合は、看護職員などの医療職と対応を相談しましょう。
Q. 吸引のあとに酸素飽和度(SpO2)が下がったときは?
A. 吸引中は空気を吸いにくくなるため、一時的に酸素飽和度が下がることがあります。吸引を続けずに呼吸を整えてもらい、表情や顔色を観察します。値が戻らない、いつもと様子が違うといった場合は、すぐに医療職に報告しましょう。


