介護の知識シリーズ《Ⅰ》医療的ケアの基礎知識|第3回/全8回
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口腔内吸引は、喀痰吸引の基本となるケアの一つです。「どこまで吸引していいの?」「吸引圧はどう確認するの?」といった疑問に、厚生労働省の研修テキストをもとにお答えします。
この記事のポイント
- 介護職が口腔内を吸引できるのは「咽頭の手前」までと決められています
- 口の奥を強く刺激すると嘔吐反射が起きるため、特に食後は注意が必要です
- 吸引圧は20kPa以下が目安。医師の指示書と手順書で決められた圧を守ります
口腔内吸引とは?
口腔内吸引とは、口の中にたまった唾液や痰、うまく飲み込めずに残った食べ物や水分などを、吸引器と吸引カテーテルを使って体の外に吸い出すことです。
口腔内の喀痰吸引は、社会福祉士及び介護福祉士法の施行規則で定められた、一定の研修と認定を受けた介護職員などが行える、5つの医療的ケアの一つです。喀痰吸引そのものの基本は、喀痰吸引とは?で解説しています。
出典:e-Gov法令検索「社会福祉士及び介護福祉士法施行規則」第1条
介護職が吸引できるのは「咽頭の手前」まで
介護職員が口腔内を吸引する場合、吸引してよい範囲は「咽頭の手前まで」と決められています。

咽頭(いんとう)とは、鼻の奥や、口の奥にある口蓋垂(のどちんこ)のさらに奥から、喉頭や食道へと続く筒状の部分です。鼻からの空気と、口からの食べ物の両方が通る場所です。
咽頭は痰がたまりやすい場所ですが、介護職員が吸引してよい場所ではありません。厚生労働省の通知で、口腔内・鼻腔内の喀痰吸引は「咽頭の手前までを限度とすること」とされています。
出典:厚生労働省「今回の法改正で実施可能となった医行為の範囲」(施行通知 第2-1 喀痰吸引等の範囲)/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引
口腔内吸引は何センチまで入れていいの?
口腔内の吸引で入れられるカテーテルの長さは、口の大きさや体格によって違うため、一律の数字では決まっていません。厚生労働省の研修テキストでも、具体的な長さではなく「あまり奥まで挿入していないかに注意」することが示されています。
実際に入れる長さは、医師の指示書の内容と、指導看護師から受けた指導に従いましょう。「咽頭の手前まで」という範囲を守ることが基本です。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト 第Ⅲ章 喀痰吸引等に関する演習」
口腔内の吸引で気をつけたいこと
口腔内の吸引では、口の奥を刺激しすぎないことと、適切な吸引圧を守ることが大切です。
注意点①口の奥を強く刺激しない
口の中で痰がたまりやすいのは、奥歯と頬の内側の間、舌の上や下、前歯と唇の間などです。こうした場所を中心に吸引していきます。
口の奥を吸引するときは、口蓋垂や咽頭の壁を強く刺激しないように気をつけましょう。強く刺激すると、「ゲエッ」という嘔吐反射が起こり、ひどい場合は嘔吐につながります。特に食後は、刺激しないよう、よりやさしく行うことが大切です。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」口腔・鼻腔吸引手順
注意点②吸引圧を守る
口腔内の吸引は粘膜の近くを直接吸引するため、吸引圧にも注意が必要です。吸引圧が強すぎると、粘膜を傷つけて出血するおそれがあります。
厚生労働省の研修テキストでは、口腔内・鼻腔内の吸引圧は20kPa(キロパスカル)以下が目安とされています。20kPaは、単位を変えるとおよそ150mmHgにあたります。実際には、医師の指示書と事業所の手順書で決められた吸引圧を守りましょう。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」喀痰の吸引/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」口腔・鼻腔吸引手順
吸引圧を確認する方法
吸引圧は、吸引カテーテルの根元をふさいで、吸引器の圧の表示を見ることで確認します。
厚生労働省の研修テキストで紹介されている確認方法は、次のとおりです。

- 吸引器の電源を入れる
- 利き手ではない手の親指で吸引カテーテルの根元をふさぐ
- 吸引器の圧の表示を見て、決められた吸引圧(目安は20kPa以下)になっているかを確認する
研修テキストでは、決められた圧を超えている場合は圧調整ツマミで調整すること、圧の調整は吸引のたびに毎回行う必要はないことが示されています。事業所によって確認のタイミングや手順が決められている場合は、その手順書に従いましょう。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」口腔・鼻腔吸引手順/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト 第Ⅲ章 喀痰吸引等に関する演習」
口腔内吸引の基本的な流れ
口腔内吸引は、声かけと同意から始まり、吸引後の観察と記録までがひとつながりのケアです。
- 指示書を確認し、手を洗う:医師の指示の内容を確認し、手洗いをして必要な物品を準備します。
- 声をかけて同意を得る:「○○さん、今から口の中の吸引をしますよ」と必ず声をかけます。意識がない方にも同じように声をかけます。
- 吸引圧を確認する:決められた吸引圧になっているかを確認します。
- 吸引する:カテーテルを静かに入れ、痰のある場所を吸引します。口の奥を強く刺激しないよう注意します。
- 吸引後の確認:痰が十分に取れたか、もう一度吸引してほしいかを本人に確認し、顔色や呼吸の様子を観察します。
- 片付けと記録・報告:カテーテルの洗浄や吸引びんの廃液の管理を行い、吸引した痰の量や様子を記録します。いつもと違う様子があれば医療職に報告します。
出典:厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト(第三号研修)」口腔・鼻腔吸引手順/厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト 第Ⅲ章 喀痰吸引等に関する演習」
カテーテルが粘膜に吸い付いたときは
カテーテルが粘膜に吸い付いてしまったときは、慌てて引っ張らず、陰圧を解除してから外します。
適切な吸引圧で吸引していても、カテーテルが口の中の粘膜に吸い付いて離れなくなることがあります。そのまま力ずくで引きはがすと、粘膜を傷つけてしまうおそれがあります。
そのようなときは慌てずに、カテーテルの根元を折り曲げるなどして、陰圧がかからない状態にします。そのうえで、こよりをよるようにそっと動かしながら粘膜から外します。決して無理に引っ張らないようにしましょう。対応に迷うときや、出血が見られるときは、すぐに看護職員に相談してください。
口腔内吸引を行うための条件
口腔内吸引は医行為にあたるため、介護職員が行うには研修・認定・事業者登録などの条件を満たす必要があります。
実務者研修の修了だけでは、医療的ケアは行えません
実務者研修や基本研修を修了しただけでは、現場で喀痰吸引や経管栄養を行うことはできません。業務として行うには、次の4つがそろう必要があります。
- 基本研修を修了する
実務者研修の「医療的ケア」(講義50時間+演習)を修了している場合、喀痰吸引等研修の基本研修は履修免除の対象になります。 - 実地研修を受ける
指導看護師などの指導と評価を受けながら、実際の利用者に対して所定の回数を行います。 - 都道府県の認定を受ける
「認定特定行為業務従事者」として都道府県に申請し、認定証の交付を受けます。 - 勤務先が事業者登録をしている
喀痰吸引等を行う事業所は、事業所ごとに都道府県へ登録している必要があります(登録特定行為事業者)。
介護福祉士の場合は、実地研修を修了したあとに社会福祉振興・試験センターへ登録し、登録証に行為が付記される流れになります。この場合、事業所は「登録喀痰吸引等事業者」の登録が必要です。なお、認定証を持っている介護福祉士は、認定特定行為業務従事者として行うこともできます。
出典:厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」/千葉県「喀痰吸引等研修 登録研修機関」/宮城県「介護職員等による喀痰吸引等の制度について」/大阪府「介護福祉士が喀痰吸引等を行うまでの流れ」
よくある質問
Q. 口腔内吸引は、1回あたり何秒くらいで行いますか?
A. 厚生労働省の研修テキストでは、口腔内・鼻腔内の吸引はできるだけ素早く済ませることとされています。吸引中は空気を吸いにくくなるため、時間が長くならないようにし、医師の指示書に時間の指示がある場合はそれに従います。
Q. 食事のあとすぐに口腔内吸引をしてもいいですか?
A. 必要なときは行いますが、特に注意が必要です。食後に口の奥を強く刺激すると嘔吐反射が起きやすく、嘔吐につながるおそれがあります。口の奥を刺激しないよう、よりやさしく吸引しましょう。
Q. 吸引しても痰が取り切れないときはどうすればいいですか?
A. 続けて何度も吸引すると、呼吸が苦しくなることがあります。いったん呼吸を整えてから再度行うか、取り切れない状態が続くときは看護職員などの医療職に相談しましょう。咽頭より奥の痰は、介護職員が吸引できる範囲ではありません。


