実務者研修は必要ない?資格がないとできない3つの仕事

介護の職場で「実務者研修なんて必要ない」という声を聞いたことはないでしょうか。実際、無資格のまま何年も働き続けている方はいますし、資格がなくてもできる仕事は確かにあります。

ただ、「必要ない」と言い切れるかどうかは、その人が今どこにいて、これからどこへ行きたいかによって変わります。この記事では、なぜ必要ないと言われるのかを整理したうえで、修了したほうがいい人と、急がなくていい人の分かれ目を具体的に示します。

この記事のポイント
  • 介護職として働くだけなら、実務者研修は必須ではありません。無資格でもできる仕事はあります
  • ただし訪問介護の身体介護、サービス提供責任者、介護福祉士の受験は、資格がないと届きません
  • サービス提供責任者の要件は2019年3月末で変わり、実務者研修の修了が事実上の最低ラインになりました

「実務者研修は必要ない」と言われる3つの理由

「必要ない」という声には、それなりの根拠があります。まずはその中身を見ていきます。

理由1|資格がなくても介護の仕事はできる

介護の現場には、資格を必須とする業務と、そうでない業務があります。無資格で働ける職場に勤めている方にとっては、実際に資格なしで仕事が回っているわけですから、「必要ない」と感じるのは自然なことです。

実務者研修は、介護職として働くための必須資格ではありません。無資格の方を採用している施設は実在しますし、資格を取らないまま働き続けている方もいます。

理由2|今の働き方に満足している

現在の職場や業務内容に不満がなく、勤務先を変えるつもりもない方にとっては、時間とお金をかけて資格を取る動機が生まれにくくなります。

実務者研修は無資格から始めると450時間・約6ヶ月。受講料も無資格の方で10万〜20万円程度が相場です。「今のままでいい」と考えている方にとって、この負担は割に合わないと映ります。

理由3|キャリアアップを望んでいない

実務者研修を修了すると、サービス提供責任者などの役職に就く道が開けます。ただ、それを望まない方もいます。

「自分はリーダーに向いていない」「業務が増えて大変そう」と感じるなら、キャリアアップは魅力ではなく負担です。その場合、修了しても得られるものが少ないと考えるのは合理的です。

資格がなくてもできる仕事、できない仕事

「資格なしで働ける」といっても、できる範囲には線が引かれています。この線の位置を知っておくと、自分に必要かどうかを判断しやすくなります。

無資格でもできる仕事

仕事内容
施設内の生活援助掃除、洗濯、食事の準備や片付け、日用品の買い物など
訪問入浴の介護職員専用車で自宅へ伺い、看護師と複数人のチームで入浴を援助する
施設内の作業・送迎洗濯、清掃、調理、設備管理、事務作業、送迎業務など
介護保険外の自費サービス病院の付き添い、犬の散歩、庭の手入れなど

ただし、訪問入浴は介護度の高い方を担当することが多く、事業所によっては資格を応募要件にしていたり、入職後に研修の受講を勧められたりすることがあります。

資格がないとできない仕事

一方、次の3つには資格の壁があります。ここが「必要ない」と言い切れなくなる境目です。

訪問介護の身体介護

訪問介護でクライアントの身体に触れる介助(食事介助、入浴介助、移動介助など)を行うには、介護福祉士・実務者研修修了者・介護職員初任者研修修了者のいずれかである必要があります。無資格では担当できません。

訪問介護は基本的に一人でクライアントの自宅を訪問し、その場で判断しながら介助します。だからこそ一定の知識とスキルが求められています。

サービス提供責任者

訪問介護事業所には、サービス提供責任者(サ責)の配置が義務づけられています。訪問介護計画の作成やヘルパーの管理を担う、事業所の中心的なポジションです。

サービス提供責任者の要件は2019年3月末で変わりました

以前は「介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)を修了し、3年以上介護等の業務に従事した者」もサービス提供責任者になれました。しかしこの要件は2018年4月の改正で廃止され、2019年3月末で経過措置も終了しています。

現在サービス提供責任者になれるのは、次のいずれかに該当する方です。

  • 介護福祉士
  • 実務者研修修了者
  • 旧介護職員基礎研修修了者
  • 旧ホームヘルパー1級課程修了者

旧課程はすでに実施されていないため、これから目指す場合は実務者研修の修了が事実上の最低ラインとなっています。

「経験を積めばいつかサ責になれる」という道は、現在は残っていません。ここは押さえておきたい変更点です。

介護福祉士の受験

介護職で唯一の国家資格である介護福祉士を、働きながら実務経験ルートで受験する場合、実務経験3年(従事日数540日)以上に加えて実務者研修の修了が必要です。

この条件は2016年度(第29回試験)から適用されています。それ以前は実務経験のみで受験できましたが、現在は実務経験をいくら積んでも、実務者研修を修了していなければ受験できません。

介護福祉士の受験ルートは実務経験ルートのほか、養成施設ルート、福祉系高校ルート、経済連携協定(EPA)ルートがあります。すでに介護職として働いている方が選ぶのは、通常は実務経験ルートです。

修了を急がなくていい人

すべての人に今すぐ必要な資格ではありません。次のような方は、無理に急ぐ必要はないでしょう。

今の職場・今の業務を続けるつもりの人

施設内の生活援助や送迎業務を中心に働いていて、その働き方を変えるつもりがないなら、実務者研修がなくても仕事は成り立ちます。

役職に就くことを望まない人

サービス提供責任者や介護主任といったポジションに関心がないなら、修了によって得られるものは限定的です。マネジメントより現場での介助を続けたい、という選択も十分に合理的です。

介護を長く続けるか、まだ決めていない人

介護の仕事を始めたばかりで、この先も続けるかどうか迷っている段階なら、まずは介護職員初任者研修から始める方法もあります。130時間と負担が軽く、修了すれば実務者研修の一部科目が免除されるため、無駄にはなりません。

それでも修了したほうがいい人

逆に、次のいずれかに当てはまるなら、修了を検討する価値があります。

介護福祉士を目指している人

実務経験ルートで受験するなら、避けて通れません。「いつか取りたい」と考えているなら、実務経験3年を満たすタイミングから逆算して受講時期を決めることになります。

訪問介護に関わりたい人

身体介護を担当するには資格が必要です。また、将来サービス提供責任者を目指すなら、実務者研修の修了が要件になります。

職場を変えたい人

特別養護老人ホームや介護老人保健施設のように、状態の重いクライアントが多い施設では、有資格者を優先して採用することがあります。応募条件に含まれていない求人でも、資格があることで採用の判断に影響することはあります。

実務者研修は全国で通用する研修であり、履歴書の資格欄に記載できます。

自己流の介助に不安がある人

介護の仕事に慣れてくると、自分がやりやすい方法で介助してしまうことがあります。自己流の介助は事故につながりやすく、クライアントの残存機能の低下を招くこともあります。

実務者研修では、生活支援技術や介護過程を体系的に学び直します。「これでいいのだろうか」と迷いながら介助している状態から抜け出したい方には、意味のある時間になります。

医療的ケアの知識を身につけたい人

実務者研修には、初任者研修にはない「医療的ケア」の科目があります。喀痰吸引(たんの吸引)や経管栄養の基礎知識と演習を学べます。

研修の修了だけでは、現場で医療的ケアは実施できません

実務者研修で学ぶのは基礎知識と演習までです。介護職員が実際に喀痰吸引や経管栄養を行うには、次の手順が必要です。

  1. 実務者研修を修了する
  2. 別途「喀痰吸引等研修」の実地研修を、指導看護師のもとで修了する
  3. 都道府県へ「認定特定行為業務従事者」として登録し、認定証の交付を受ける
  4. 勤務先の事業所が「登録特定行為事業者」として都道府県に登録する

「実務者研修を修了すれば医療的ケアができるようになる」という説明を見かけることがありますが、正確ではありません。

受ける前に知っておきたい3つの負担

判断材料として、負担の側も正直にお伝えします。

費用がかかる

無資格の方の場合、受講料の相場は10万〜20万円程度です。決して手軽な金額ではありません。

ただし、教育訓練給付金や自治体の補助制度、勤務先の資格取得支援制度を使える場合があります。使える制度があるかどうかで、実際の負担は大きく変わります。詳しくは実務者研修の補助制度をご覧ください。

時間がかかる

無資格から始めると450時間、標準的な学習期間は約6ヶ月です。初任者研修やヘルパー資格をお持ちの場合は科目が免除され、初任者研修・ヘルパー2級をお持ちなら約2ヶ月まで短縮されます。

通学が必要なのは介護過程Ⅲと医療的ケアの演習だけで、日数にすると7日程度です。残りは自宅学習なので、生活リズムに組み込めるかどうかが続けられるかの分かれ目になります。1日あたりの目安は実務者研修の勉強時間で解説しています。

介護の現実を知ることになる

実務者研修では、認知症、障害、医療的ケアなど、介護の専門的な内容を幅広く学びます。クライアントの置かれている状況を、これまでより詳しく知ることになります。

それは仕事の質を高める一方で、人によっては受け止めが重くなることもあります。良い面だけではないことは、知っておいていいと思います。

収入面ではどう変わる?

資格の有無で平均給与額に差があることは、調査データで示されています。

厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」による、保有資格別の平均給与額は次のとおりです。

保有資格平均給与額
介護支援専門員376,770円
社会福祉士350,120円
介護福祉士331,080円
実務者研修302,430円
介護職員初任者研修300,240円
保有資格なし268,680円

出典:厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」第102表 介護職員の平均給与額等

保有資格なしが268,680円、実務者研修が302,430円で、3万円以上の差があります。ただしこれは全国の平均値であり、実際の給与は事業所や地域、勤務形態によって異なります。

資格手当を設けている事業所では手当の対象になりますが、有無や金額は事業所ごとに異なり、修了すれば必ず支給されるものではありません。勤務先の規定をご確認ください。

よくある質問

実務者研修を修了しないと、介護の仕事はできませんか?

できます。施設内の生活援助や送迎業務、訪問入浴の介護職員、介護保険外の自費サービスなどは無資格でも担当できます。ただし訪問介護の身体介護には、介護福祉士・実務者研修修了者・初任者研修修了者のいずれかであることが必要です。

経験を積めば、資格がなくてもサービス提供責任者になれますか?

現在はなれません。以前は初任者研修(旧ホームヘルパー2級)修了者で3年以上の実務経験があればサービス提供責任者になれましたが、この要件は2018年4月の改正で廃止され、2019年3月末で経過措置も終了しています。現在は介護福祉士、実務者研修修了者、旧介護職員基礎研修修了者、旧ホームヘルパー1級課程修了者のいずれかが必要です。

まず初任者研修から始めたほうがいいですか?

どちらからでも始められます。無資格からいきなり実務者研修を受講することも可能です。ただし初任者研修(130時間)を先に修了すると、実務者研修の一部科目が免除されて受講時間が320時間になり、受講料も抑えられます。介護を長く続けるか迷っている段階なら、負担の軽い初任者研修から始める方法もあります。

まとめ:必要かどうかは、これからどこへ行きたいかで決まる

実務者研修は、介護職として働くための必須資格ではありません。無資格でもできる仕事はありますし、今の働き方に満足していて役職も望まないなら、急いで修了する理由は薄いでしょう。

一方で、介護福祉士を目指す、訪問介護で身体介護に関わる、サービス提供責任者になる。この3つはいずれも、実務者研修を修了していないと届きません。特にサービス提供責任者は、2019年3月末で「経験を積めばなれる」道がなくなりました。

「必要ない」かどうかは、資格そのものの価値ではなく、ご自身がこれからどこへ行きたいかで決まります。今の場所にとどまるなら必要ない。先へ進みたいなら、いずれ必要になる。そう整理して考えてみてください。

実務者研修そのものについてもっと知りたい方は、実務者研修とは?修了するメリットや学ぶ内容をご覧ください。

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