【第3回】土屋ケアカレッジカンパニー主催 特別社内研修会

<第3回>『飲み込むってこんな感じ~実際に感じて理解~』

2025年3月26日、「医療的ケア実施にあたっての知識と心得」をテーマとする特別社内研修会の第3回目が、土屋ケアカレッジカンパニー主催により行われました。

今回は、「岡山の在宅医療と在宅福祉を考える会」副会長の妹尾郷史氏にご登壇いただき、参加者が実際にお菓子や飲料水を用いて飲み込みを体感・理解するという「体験型研修会」が実施されました。

第3回研修会の概要

開催日:2025/3/26(水)
内容:<第3回>『飲み込むってこんな感じ~実際に感じて理解~』
講師:妹尾郷史氏(岡山の在宅医療と在宅福祉を考える会 副会長/「支縁の羽はねる」言語聴覚士)
参加対象者:土屋グループの全メンバー(非常勤含む)

第3回研修会『飲み込むってこんな感じ~実際に感じて理解~』の概要

<目標>

何事もまずは目標が必要です。その目標とは…

予想外の誤嚥性肺炎はゼロ

実際のところ、「誤嚥性肺炎ゼロ」には無理があります。

特に医療の現場ではない在宅・デイサービス・グループホーム・介護保険の現場では、ご利用者の希望が主となるため、肺炎・誤嚥のリスクが高くても食べ物を口から摂取している方はおられます。

ただ、こちらが「誤嚥はしない」と思って接している方が誤嚥してしまうと、それが「予想外の誤嚥性肺炎」となります。

原因として、ご利用者の機能低下に気付かなかったり、発信しているシグナルを見落としていたということが挙げられます。

<誤嚥と肺炎>

誤嚥と肺炎は別物です。

誤嚥と肺炎はイコールではなく、誤嚥しても肺炎にならないケースは多々あります。

排痰や吸引など、誤嚥した後のかかわりで肺炎にならない方もいれば、アプローチを何もしなくても肺炎にならない方もおられます。

例えば、喉の機能だけ悪くて誤嚥するものの、普段自分で歩いて生活している人であれば、動いている間に自然と痰が出てくることもあります。

つまり、誤嚥=肺炎ではなく、誤嚥して、その誤嚥したものが放置されてしまった後に誤嚥性肺炎などの肺炎になります。

そのため、「誤嚥しても肺炎を防ぐ対応」をプログラムに含めると、誤嚥性肺炎にまでならない可能性が大幅に上がります。

ただ、排痰や吸引も必要となり、場合によっては介護の職域で防げないものもあるので、誤嚥の可能性がある場合は、

看護師さんに「誤嚥したかもしれないので、しっかり吸引をお願いします」とフォローの連絡を入れるなどするとよいと思います。

<嚥下メカニズムの5期>

よく「この方、飲み込みが悪いんです」という言葉を聞きますが、飲み込みの「どこ」が悪いのかという話は一切出てきません。

それを考えるためには、「嚥下メカニズムの5期」を理解することが必要です。

まずは、ご自身で体感しましょう。

実際に体験してみよう!

①「飲み込む」を分割して体感する。
② 飲み込む際に「動く筋肉」を意識する。

<ポイント>
まずは喉ぼとけの動きを把握しましょう!
・唾液を飲む際に、喉ぼとけを触ってみましょう。
・他者の喉の動きも感じてみましょう。
お菓子を食べてみましょう!

嚥下メカニズムの5期

(1)先行期(認知期)

〇食べ物の大きさ、硬さ、べたつき、温度などを、目・鼻・唇で予想する。
〇予想したら、唇と舌で取り込む

私たちは食べ物を認知して口の中に入れていますが、認知症の方はまずここができなくなります。

食べ物に対して大きさの認知ができないために、薄いチップスでも口を大きく開けたり、スプーンをガチっと噛んでしまいます。

このように、認知機能が低下すると、食べ物をうまく取り込めなくなります。

(2)準備期(咀嚼期)

〇噛む筋肉を使い、噛み砕き、舌の筋肉や上顎で押し固めて食塊をつくる

噛む筋肉には、顎の筋肉の他に、頭の横の筋肉もあります。食べ物を噛むと、こめかみがピクピク動くと思いますが、ご利用者の中には食べている時もこめかみが動かない人がおられます。

しっかりと噛めているかどうかは、その部分を触ればわかるので、準備期ではそのあたりまで気にすることが大切です。

そして、舌の筋肉や上顎で押し固めて食塊をつくります。

イメージとしては“餅つき”です。

杵(歯)で餅をつくだけではまとまりませんが、合いの手(舌)があるときれいに固まっていきます。

また、喋りながら食べると時折舌を噛んでしまいますが、そのように同時に2種類の動きをしようとすると、舌と歯の動きに協調性がなくなります。

難病の方では一生懸命噛もうとするだけでそれが起こる場合があるので、舌を噛むのが怖くて、上手に舌を動かさなくなってしまいます。

口をもごもご動かしていても、食塊がつくられていないことがよくあるので注意が必要です。

(3)口腔期

〇喉の奥へ送り込む
〇舌は先から奥へと徐々に上顎にくっついていく

食塊を喉に送り込むスピードは早く、ほぼ噛み終わった時には送り込んでいます。

まず舌の先が上顎につき、真ん中がつき、奥がついていくというように、舌は色々な動きをしています。

(4)咽頭期

〇下顎を固定し、喉の奥の空間を維持する
〇舌の根元が上がり、喉の奥を狭めていく
〇喉頭蓋が倒れこみ、誤嚥を防ぎながら食道へと押し込んでいく

咽頭期では、喉頭蓋が倒れて気管を完全にふさぎ、食塊が食道へと入っていきますが、この時に大事なことは下顎を固定しているということです。

つまり飲み込む瞬間は噛みしめていて、喉の奥の空間が維持されています。

その後、舌の根元が上がってきて喉の奥を狭めていきます。
そして最後に喉頭蓋が倒れこみ、息をする方を塞いだ瞬間に食道がはじめて開きます。

(5)食道期

〇食道の入り口が開いて食塊が食道へ引き込まれる
〇食道の蠕動運動で胃へ送る

食塊は食道に入ると、食道の蠕動運動によって胃に送り込まれます。
これは平滑筋という筋肉で行われるので、リハビリで鍛えられない部分となります。

この平滑筋の動きがなくなってしまうと、逆流性の食道炎という病名がつくこともあります。

逆流性の食道炎で逆流してきたものを誤嚥すると、逆流性の肺炎、逆流性の誤嚥性肺炎となります。

誤嚥性肺炎には種類がいくつかありますが、逆流したものを誤嚥するのは、胃酸が入っていることから肺炎を起こしやすくなり、一番良くないケースとなります。

逆流を防ぐためには「重力」に頼ります。
胃ろうであれば30~40度くらいに維持し、在位の方は食後すぐに横にならないようにします。

また、食後すぐに席を立つと食道が横向きになるので、移乗もすぐにはしないようにします。

ポイント>
飲み込みの「どこ」が悪いのか、<嚥下の5期>の中から探せるようになりましょう!

5の食道期は外から見えないので、1~4で説明できればよいと思います。

「認知期が悪いせいか、口を開けてくれません」
「準備期が悪いのか、食べものが口の外にこぼれてきます」
「本人は食べたと言いますが、口の中に残っています。送り込みができていないので口腔期が悪そうです」
「飲んだ瞬間にゴホゴホむせるので咽頭期が悪いみたいです」

ご利用者にどうアプローチをするかは、こうした1~4期の情報が大事になります。

ご利用者を見る基準は「自分と違う動きをしている」で大丈夫です。
そのためにも、水分や固形物を使って自分自身で嚥下の5期を感じ取っていただければと思います。

<障害を感じ取ろう!>

①上を向いた状態で水分を飲む

上を向いた状態で水分を飲むと、飲みにくさを感じると思います。

これがよく言われる、「頸部伸展状態を作らないでください」「頸部前屈で飲みましょう」ということです。

私たちはかなり上を向かないと不便さを感じませんが、ご利用者の中には真っすぐ向いている状態から少しでも伸展すると飲みにくくなってしまう方もおられます。

②口を軽く開けたまま、上の歯と下の歯が触れないようにして水分を飲む

これは下顎を固定して、喉の奥の空間を維持するのをやめる動きです。

下顎は骨の中でよく動くところですが、上顎は動かないので、上顎に下顎をつけることで下顎ははじめて固定します。

下顎が固定されないと、喉ぼとけが上手く上がらず飲みにくくなりますが、こめかみが動いていないような筋肉の使い方をしている方の中には、こうした上の歯と下の歯がつかない状態で飲んでいる方もいるので注意が必要です。

③お菓子を口に含んでよく噛み、追加で水分を含み、先にお菓子を飲み込みましょう

これはミックス嚥下です。
普通はまとめて飲みますが、形態の違うものをミックスすると、嚥下は難しくなります。

飲み込みが悪い人は、水分が先に流れ込んでむせてしまいます。
例えば、服薬時に水分だけ飲んで錠剤が口に残っているケースと同様です。

飲む嚥下反射がしっかりしていればむせませんが、嚥下反射が遅延する方や、意識が薬にしか向いてない方は、水分が間に合わなくてむせてしまいます。

口の中はまとめる力や、まとめて飲む力もありますが、分離する力はあまりありません。

ですが、ご利用者によってはその分離が起こります。
例えば、ミキサー食を食べているのに、水分が薄とろみの方はミックス嚥下になることがあります。

固形と水分のとろみ具合の差が出るためで、中とろみにしないとむせるリスクが高くなります。

ただ、意識の変化で飲めることもあります。
「飲む」と「食べる」の使い分けもその一つです。

例えば中とろみでは、「飲んで」と言うより「食べて」と言うほうが上手に食べられます。

とろみが増してくると、飲み物から食べ物に変わるという認識を持って声掛けするのも大事だと思います。

<予想外の誤嚥性肺炎をゼロにするために>

ご利用者では、経年劣化や難病の進行で現状より状態が悪くなる方が多いですが、嚥下の5期を把握しておくことが「予想外」の誤嚥性肺炎をゼロに持っていくことにつながります。

そして、悪くなったところに気付いた際には相談員やケアマネ、看護師や医師に発信しましょう。

その際には、「飲み込みが変なんです」だけではなく、例えば「噛み方が前と変わって、飲めて入りはしますが、顎の動きが変です」「噛んだ後に噛み砕けていますが飲まないんです、時間が延びたんです」というように、“どこがおかしいのか”を言えると良いと思います。

<まとめ>

患者さんの現状を5期に分類し、それぞれ〇×△を付けてみましょう!

例えば口腔期で飲みにくそうだったら△、咽頭期はむせなかったら〇という形で、簡単にチェックしましょう。

そして悪い所を見つけて、周りに共有することが大切です。

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