介護の知識シリーズ
《Ⅰ》医療的ケアの基礎知識 【医療的ケアとは?】
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このページは《Ⅰ》医療的ケアの基礎知識の中の【医療的ケアとは?】のページです。
医療的ケアの基礎知識についての目次は末尾にあります。
医療的ケアについて
医療的ケアとは、「日常生活で必要な喀痰吸引や経管栄養などの医行為」のことを言います。医師が行う治療行為ではなく、介護職等が行う医療的な日常生活援助行為のことで、主に介護や教育の現場で定着してきた言葉です。
医行為ができる人って?
医行為ができるのは、主に医師と看護師です。
医行為は「医師の医学的判断および技術をもってすることでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為」とされ、医師は医師法第17条、看護師は保健師助産師看護師法第5条で、医行為を業(仕事)として行ってもよいと規定されています。
介護者が医行為を行えるようになるまで
わが国では、医療費削減等の観点から、「病院は治療をするところ」という位置づけがなされており、治療行為期間が終わると退院する傾向にありますが、退院し、医療職が常にいる環境でない在宅で生活する中でも、医療的ケアの必要な場面は時を選ばず訪れます。
また、高齢者や、脳梗塞後の後遺症による嚥下障害、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの障害・難病をかかえる医療的ケアが必要な人が増え、医行為を仕事としてできる人材を増やしていく必要も出てきました。
そうした中、2002(平成14)年に「介護者が日常生活の場で吸引することを認めてほしい」との声が上がり、2003(平成15)年より、厚生労働省は運用上の取り扱いで当面のやむを得ない措置として、家族、医療職以外にも喀痰吸引や経管栄養を実施することを順次、容認しました。
しかし、これは法的には認められていない状態での医療的ケアの実施であり、実質的違法性阻却論という考え方により認められていたにすぎません。
そのため、介護職も法に基づいて医療的ケアが行えるようにと、2011(平成23)年、社会福祉士及び介護福祉士法が改正されました。「喀痰吸引その他のその者が日常生活を営むのに必要な行為であって、医師の指示のもとに行われるもの」という文章が追加され、介護福祉士を含む介護職も、喀痰吸引と経管栄養を仕事として行えるようになりました。
法改正により実施可能となった医行為の範囲
- 口腔内の喀痰吸引
- 鼻腔内の喀痰吸引
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引
- 胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
①と②は咽頭の手前までを限度とすると決められています。
介護職の医療的ケアには資格が必須
法改正後も、喀痰吸引や経管栄養を含む医療的ケアは医行為であるとされています。ですから、医療の資格を持たない介護職が医療的ケアを行うには、まず研修を受け、資格を取得しなければいけません。そのための実施条件なども制度化されています。
具体的には、2012(平成24)年に始まった喀痰吸引等研修を受講後、都道府県に申請し登録をすることによって資格が取得できます。これにより、法的安全性に加え、医師の指示と看護師の技術的指導を経て、介護職が安全に医療的ケアを提供できるようになりました。
ポイントは、「医師の指示のもと」というところで、必ず利用者の主治医による指示書にしたがって吸引を実施します。医師の指示書には、何の医療的ケアをどのように行うかなどの細かな指示内容が書かれていますので、医療的ケアを実施する際は、事前に医師の指示書を見て指示内容を確認します。
医療的ケアまとめ
今までは制度のお話をしてきましたが、実際に医療的ケアを行う場合に大切なことがあります。
皆さんも自分が患者として病院を受診する際、採血をするとなれば、ためらいなく腕をさし出しますよね。それは、知識や技術を習得し資格を持った医師や看護師が適切に医療を提供できる人だとの信頼に基づくものです。
医療的ケアを行う介護職等も、資格を持っているだけではなく、医療を担う一員として医療倫理を守り、利用者の信頼に対して謙虚に誠実に医療的ケアを提供していくことが必要になってきます。
例えば、インフォームド・コンセント(説明と同意)やプライバシーの保護、丁寧な声かけなどがあります。
介護職の皆さんも、医療的ケアを行う際は医療の倫理を守り、よりよい医療的ケアの提供を目指してほしいと思います。
介護の知識シリーズ
《Ⅰ》医療的ケアの基礎知識 目次
監修
雪下岳彦
順天堂大学 医学部&スポーツ健康科学部 非常勤講師
1996年、順天堂大学医学部在学時にラグビー試合中の事故で脊髄損傷となり、以後車いすの生活となる。
1998年、医師免許取得。順天堂医院精神科にて研修医修了後、ハワイ大学(心理学)、サンディエゴ州立大学大学院(スポーツ心理学)に留学。
2011年、順天堂大学大学院医学研究科にて自律神経の研究を行い、医学博士号取得。
2012年より、順天堂大学 医学部 非常勤講師。
2019年より、順天堂大学 スポーツ健康科学部 非常勤講師を併任。
医学、スポーツ心理学、自律神経研究、栄養医学、および自身の怪我によるハンディキャップの経験に基づき、パフォーマンスの改善、QOL(Quality of Life:人生の質)の向上、スポーツ観戦のバリアフリーについてのアドバイスも行っている。