「介護職であれば実務者研修を取得したほうがよい」「実務者研修をとるとステップアップがしやすくなる」など、なにかと介護業界では実務者研修の取得が推奨されることが多いです。
なぜ、介護職として働くと、実務者研修を取得する必要があるのでしょうか。
当記事では、実務者研修の必要性、また取ることでのメリットやキャリアアップにおける効果について、多角的に解説します。
実務者研修の必要性について
実務者研修は、前提として、介護職として働く上での必須資格ではありません。
「実務者研修を取得していない人」「介護関連の資格をまったく保有していない人」を採用する介護施設は存在しますので、取得せずとも介護業界への就職は可能です。また就職した後も、実務者研修を取得せずに働き続ける人もおります。
より厳密にいえば、後述する「訪問介護」ではなく、施設内での介護業務を行う場合であれば、実務者研修は必須ではありません。
訪問介護では必須となる
「訪問介護」の仕事に携わる場合、実務者研修の資格が必須となります(もしくは下位にあたる「介護職員初任者研修」の資格が必須)。
訪問介護の仕事では、基本的に1人でクライアントの自宅を訪問し、衣服の洗濯、部屋の掃除といった「生活援助」の他、食事介助、入浴介助、移動介助といったクライアントの身体に触れる「身体介護」も一人で行うことになります。
こうした訪問介護の業務は、実務者研修を受講し、介護に対する一定の知識やスキルを身に付けた方でないと行えないことになっています。
実務者研修を取得する意味やメリットは?
実務者研修を取得していなくとも介護職として働くことはできますが、やはり取得をしておいた方が有利になることが多いです。
具体的には、実務者研修を取得することで以下5つのメリットが生じます。
- 「介護福祉士」の受験資格を得られる
- 知識や技術を高められる
- 就職先の選択肢が広がる
- 給料アップが期待できる
- 「サービス提供責任者」を目指せる
以降では、それぞれの詳細を解説します。
「介護福祉士」の受験資格を得られる
特に大きなメリットとなるのは、実務者研修を修了すると、国家資格となる「介護福祉士」の受験資格を得られることです。
実務者研修を取得後、介護福祉士を受験するのは定番のキャリアアップルートであり、介護福祉士を取得すれば、介護現場においてより高いポジションを目指せます。
※介護福祉士については、後半で詳細を記載します。
知識や技術を高められる
実務者研修では、「生活支援技術」「発達と老化の理解」「認知症の理解」「障害の理解 」「医療的ケア(たんの吸引、経管栄養等)」など、幅広い分野の介護知識を学ぶことができます。また、スクーリング授業を通じて、実技的なスキルも身に着けることもできます。
そうした豊富な研修を通じ、さまざまな介護状態のクライアントに対応できる知識や技術を学べるため、介護職としてのスキルの底上げが図れます。
前述もしたように「訪問介護」などの業務にも携われるようになるため、活躍の幅も広げられるでしょう。
就職先の選択肢が広がる
実務者研修を取得していない人を採用する施設もありますが、一方で実務者研修の取得者のみを採用する施設もあります。
たとえば、特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)といった施設では、症状の重いクライアントも多いことから、無資格者よりも実務者研修の有資格者の方を優先して採用することが多いです。
そうした就職先や転職先の選択肢を広げられることも、実務者研修を取得することでのメリットです。
給料アップが期待できる
実務者研修を取得している人には、「資格手当」として毎月1〜2万円程度支給する施設が多く、給料アップが期待できます。
以下は、厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」内で集計されている、介護資格別の平均給与額データです。
資格名 | 平均給与額 |
---|---|
介護福祉士 | 331,080円 |
社会福祉士 | 350,120円 |
介護支援専門員 | 376,770円 |
実務者研修 | 302,430円 |
介護職員初任者研修 | 300,240円 |
保有資格なし | 268,680円 |
保有資格なしの平均給与額が268,680円であるのに対し、実務者研修の平均給与額は302,430円となり、3万円以上高いことがわかります。「介護福祉士」や「社会福祉士」といった上位の専門資格を保有していれば、より高い給料を目指すこともできます。
「サービス提供責任者」を目指せる
サービス提供責任者(通称「サ責」)とは、訪問介護サービスの責任者となる職種です。
訪問介護サービスの実施計画を立てたり、ホームヘルパーの管理を行う、訪問介護分野の中心的ポジションとなり、介護職からのキャリアアップ候補となる職種のひとつでもあります。
このサービス提供責任者になるためには、以下いずれかの資格が必要になり、実務者研修修了者も対象に含まれています。
- 介護福祉士
- 実務者研修修了者
- 旧介護職員基礎研修修了者
- 旧ホームヘルパー1級課程修了者
- 介護職員初任者研修課程修了者で3年以上介護等の業務に従事した者
大きなメリットは「介護福祉士」の取得に繋げられること
実務者研修を取得することでさまざまなメリットが生じますが、なかでもとくに大きなメリットとなるのは「介護福祉士」へのステップアップに活かせることです。
将来、介護福祉士を目指すために実務者研修を受講する人も少なくありません。
ここでは実務者研修と介護福祉士の関係について深堀して解説します。
介護福祉士とは?
「介護福祉士」は介護分野で唯一の国家資格となり、この資格を所持していると、介護分野における幅広い知識やスキルを備えていることの証となります。
介護分野のスペシャリストとして、リーダーポジションなどの重要な業務を任されることが増え、介護現場での出世に役立つことが多いです。転職もしやすくなり、前述もしたように給料水準自体も高くなります。
実務者研修は介護福祉士の受験資格となる
介護福祉士は受験資格を満たした方でないと受験ができません。介護福祉士の受験資格を満たすには、以下4つのルートが用意されています。
- 実務経験ルート
- 養成施設ルート
- 福祉系高校ルート
- 経済連携認定(EPA)ルート
介護職に就き、働きながら介護福祉士を目指す場合は、1つ目の「実務経験ルート」を利用することになります。
実務経験ルートの受験条件は、以前は「実務経験3年以上」のみでした。しかし2015年(平成27年)の法改正により「実務経験3年以上+実務者研修の修了」へ条件が変更されました(もしくは実務経験3年以上+介護職員基礎研修+喀痰吸引等研修でも可)。
このため、現在は介護福祉士を目指す上で実務者研修は欠かせない資格となっています。いくら実務経験だけ重ねても、実務者研修を受講しないと介護福祉士の試験を受験することができません。
実務者研修を取得するデメリット
良いことばかりではなく、実務者研修を取得する上で、以下のようなデメリットも生じます。
- お金が掛かる
- 時間が掛かる
- 介護の現実を知ることになる
以降では、それぞれの詳細を解説します。
お金が掛かる
実務者研修の受講費は、一般的に10万~20万円程度が相場です(無資格者の場合)。手軽な額とはいえないため、介護業界に進まないのであれば、費用的なデメリットが大きくなります。
ただし受講費用は、各種補助制度を使うことで減額できることもあります。また、すでに介護施設などに勤めている場合は、「資格取得支援制度」として、施設側が費用を負担してくれるケースもあります。
時間が掛かる
実務者研修では、450時間以上の研修を受けることになり、期間としては最短でも6か月以上掛かります(無資格者の場合)。
つまりは6か月以上勉強をする生活が続くことになりますので、プライベートが犠牲になりかねません。また、スクーリング授業の日には、スクールに通学し朝から夕方まで演習をすることもあるため、休日が丸々1日なくなってしまうこともあるのです。
介護の現実を知ることになる
実務者研修では、認知症、障害、医療的ケアなど、介護に関するさまざまな専門知識を学びます。
介護の現状やクライアントの置かれている状況について、良くも悪くも、これまでよりも詳しく知ることになります。人によって辛い感情などが生まれることもあり、それはデメリットともいえるかもしれません。
介護の道に進むなら取得する意味がある
このように実務者研修は、取得するメリットの多い資格です。将来「介護福祉士」を目指す際にも役立つ資格ですので、とくに介護業界で長く働く予定の方、ステップアップを目指している方であれば、取得する意味は十分あるでしょう。
実務者研修を開催しているスクールは多く、通信や夜間・休日を使って学べるコースもありますので、現職と両立しながら学ぶこともできます。補助金制度なども用意されてますので、意欲のある方は臆せずにチャレンジしてみてはいかがでしょう。
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