介護の知識をシリーズで発信していきます。
このページは《Ⅰ》医療的ケアの基礎知識の中の【経管栄養①胃ろうまたは腸ろう】のページです。
医療的ケアの基礎知識についての目次は末尾にあります。
胃ろうまたは腸ろうとは
胃ろう・腸ろうによる経管栄養とは、手術でお腹に孔を開けて、ろう孔を作り、そこからチューブを通し留置して、直接胃や腸に栄養剤(食べ物)を注入し、栄養補給することを言います。
長期に経管栄養が必要となる場合で、経鼻経管栄養(鼻にチューブを通して行うもの)が4週間以上続く場合は、胃ろうまたは腸ろうを作り、栄養補給をすることが多いです。 胃ろう・腸ろうによる経管栄養は、介護職等が資格取得後に認められている医行為の一つです。
胃ろう
一般的に、胃ろうを作るために行われる手術を、経皮的胃ろう造設術(PEG<ペグ>)といいます。現場では、ペグと呼ばれることも多いです。 胃ろうは、ろう孔を作るために手術が必要で、皮膚トラブルや腹膜炎などの合併症のリスクはありますが、メリットも多くあります。
メリット①
利用者本人や家族から見て、鼻からチューブが出て固定されている(経鼻胃管)と、痛々しさや病人といったイメージを持たれやすく、外出先で他人からの視線を感じることで外出を控えるなどにつながることもあります。 顔にチューブ固定がないため外見がすっきりすることは、胃ろうのメリットとしてとても大きいです。
メリット②
経鼻経管栄養で用いる経鼻胃管はテープで顔に固定するため、容易にチューブが抜けてしまいます。胃ろうはカテーテルでしっかり固定されていることから引っ張っても抜けにくく、誤嚥のリスクが減ります。
メリット③
経鼻胃管は1~2週間で交換が必要ですが、胃ろうでは交換時期が1~6ヶ月と長いことが挙げられます。
このように、たくさんのメリットがある胃ろうですが、胃を切除した人や小児、体の臓器の位置関係などから胃ろうが作れない人もいます。そういった場合は、腸ろうを作ったり、経鼻胃管を通し経鼻経管栄養で食事をします。
腸ろう
腸ろうは、胃ろうと同じメリットがありますが、胃ろうよりさらに奥にカテーテルが挿入されるため、胃ろうに比べて栄養剤の逆流が少なく、誤嚥や嘔吐はしにくいです。
一方で、チューブが細く長いため、詰まらないように管理することが必要とされます。また、小腸へ直接注入するため、下痢や血糖値の変動が起こりやすく、ゆっくりした速度での注入が必要です。
胃を切除した人やがん患者、胃の変形の強い人が腸ろうの適用者となります。
胃ろうカテーテルの種類
胃ろうカテーテルの体外の形状には、ボタン型とチューブ型の2種類があります。 また、体内の形状として、バルーンタイプとバンパータイプの2種類があります。
これらをかけ合わせて主に4種類の胃ろうカテーテルがあり、ボタン型のバルーン、ボタン型バンパー、チューブ型バルーン、チューブ型バンパーになります。
ボタン型は、目立たず自己抜去が少ないことや、ふたを開けた途端に胃の内容物が出ることを防ぐ逆流防止弁が付いているタイプもあります。
またバルーンタイプは交換がしやすく、そのためボタン型バルーンがよく使用されています。どの胃ろうカテーテルを使用するかは、利用者の体の状態を考慮して医師が決定しています。
栄養剤の種類
注入する栄養剤の種類は、液体栄養剤と半固形栄養剤に分けられます。 液体栄養剤は胃・腸ろうや経鼻胃管からの経管栄養に適用できますが、半固形栄養剤は注入に力がいるため、細くて長いチューブである腸ろうや経鼻胃管には使用できず、胃ろうが適用となります。
家族と同じ食事(適用ではない食べ物もあります)をミキサーで液状にして、胃ろうから注入することもありますが、固形物はカテーテルを詰まらせやすいため注意が必要です。
(1)液体栄養剤
液体栄養剤は、経管栄養セットと呼ばれる、点滴のボトルのようなものを使用して、約2時間かけて注入をしていき、食後30分は胃からの栄養剤の逆流防止のため座位を保ちます。
(2)半固形栄養剤(胃ろうのみ)
胃ろうからの半固形栄養剤の注入方法は、主に3種類あります。
- パックのまま手でしぼりながらの注入
- パックをボールなど皿に開けカテーテルチップ型シリンジでの注入
- 加圧バッグを使用しての注入
注入時間は5~15分と短く、食事後の座位保持も基本的には必要ありません。 液体栄養剤が胃から逆流しやすい人は、半固形栄養剤を選択されることが多いです。
半固形栄養剤は液体栄養剤よりも1回にかかる食事の時間が短いことから、利用者からは「食事のほかに時間を使えて、旅行や買い物など行動範囲が広がった」との声も聞かれます。
どの栄養剤を、どのくらいの量で注入するかは医師の決定の下で行われるため、介護職が勝手に変更することは禁止されています。医師の指示書にしたがって食事の提供をしていきます。
胃ろう・腸ろうの注意点
胃ろう・腸ろうでは、ろう孔周囲の皮膚トラブルに注意が必要です。 手術直後や感染の兆候があれば消毒の処置が必要ですが、日常的にはそういった処置は必要ありません。
ですが、胃液や栄養剤の付着でスキントラブルが起きていないかを観察することは必要なため、毎食前に、ろう孔周囲に異常がないかを観察します。もし、異常があれば医療職に連絡して対応することが必要です。
まとめ
胃ろうや腸ろうでの経管栄養によって食事をしている人は、寝たきりとのイメージを持たれやすいです。ですが、実際はそうではありません。胃ろうからの半固形栄養剤を注入後に車いすスポーツをされる方もいますし、胃ろうを作ることで顔のチューブ固定が取れ、気持ちが軽くなり旅行を楽しまれる方もいます。
また食事での栄養補給は生きるためには必要なことですが、食事は栄養補給だけではなく、人生の楽しみにされている方もたくさん見えます。 1回胃ろうを作ったからといって、その先ずっと口から食べられなくなるわけでもありません。
胃ろうを作る原因となった症状や疾患が改善して、食べるための嚥下などが機能していれば、胃ろうを閉じて、再び口からの食事をされている方もおられます。
胃ろうからの経管栄養は、点滴(静脈栄養)とは違い、胃へ直接、栄養剤を注入します。そのため、利用者からは、「胃があたたかくなって、香りも胃から上がってきて食事をしているという実感がある」と言われたりもします。これは、静脈栄養にはない味覚や嗅覚を経管栄養では感じられるということで、とても大切なことです。
介護の知識シリーズ
《Ⅰ》医療的ケアの基礎知識 目次
監修
雪下岳彦
順天堂大学 医学部&スポーツ健康科学部 非常勤講師
1996年、順天堂大学医学部在学時にラグビー試合中の事故で脊髄損傷となり、以後車いすの生活となる。
1998年、医師免許取得。順天堂医院精神科にて研修医修了後、ハワイ大学(心理学)、サンディエゴ州立大学大学院(スポーツ心理学)に留学。
2011年、順天堂大学大学院医学研究科にて自律神経の研究を行い、医学博士号取得。
2012年より、順天堂大学 医学部 非常勤講師。
2019年より、順天堂大学 スポーツ健康科学部 非常勤講師を併任。
医学、スポーツ心理学、自律神経研究、栄養医学、および自身の怪我によるハンディキャップの経験に基づき、パフォーマンスの改善、QOL(Quality of Life:人生の質)の向上、スポーツ観戦のバリアフリーについてのアドバイスも行っている。