「介護福祉士実務者研修」は、介護業界で働く人にとって身近な資格であり、耳にすることも多い資格です。
とはいうものの、いまいちどのような位置付けの資格であるか分からない方もいらっしゃるかもしれません。「研修はどのような内容なのか」「どこでどうやって受講するのか」「費用はいくら掛かるのか」等の疑問もあるのではないしょうか。
そこで当記事では、実務者研修について、受講条件、費用、取得方法など各方面から詳しく解説します。実務者研修を一から知りたい方はぜひご覧ください。
「実務者研修」とは
実務者研修は簡略化した呼び名であり、正式名称は「介護福祉士実務者研修」となります。
この研修を通じて、幅広いクライアントに対応できる基本的な介護知識や能力を身に着けることができます。喀痰吸引や経管栄養についても学ぶため、要介護度の高いクライアントや医療的ケアが必要なクライアントにも対応でき、活躍の場を広げられます。
研修期間は「450時間以上・6ヶ月間」と定められており(無資格者の場合)、研修は座学と実技演習(スクーリング授業)から成ります。
資格の分類としては、厚生労働省が認定する公的な資格(研修)となり、研修の方針や科目については、厚生労働省の「実務者研修の指定基準について」にて、詳細が定められています。
実務者研修の受講条件
実務者研修の受講条件は、厚生労働省側から明確に定められておりません。つまり、年齢、性別、職業を問わず、誰でも受講が可能です。実務経験も問われないため、介護職として働く前に実務者研修を受講することもできます。
ただしスクールによっては、「心身ともに健康な介護に関心のある16歳以上」のように、下限の年齢条件を定めているケースがあります。こうしたルールは、厚生労働省ではなく、あくまでスクール側が独自に定めているルールとなります。
費用と研修期間
実務者研修の研修期間や費用は、介護関連の資格の保有状況によって上下します。
以下の表は、保有資格別の研修時間と費用目安をまとめたものです。
保有資格 | 研修時間 | 費用目安 |
---|---|---|
無資格者 | 450時間 | 約10~20万円 |
ホームヘルパー3級 | 420時間 | 約10~20万円 |
介護職員初任者研修 | 320時間 | 約7~10万円 |
ホームヘルパー2級 | 320時間 | 約7~10万円 |
ホームヘルパー1級 | 95時間 | 約5~7万円 |
介護職員基礎研修 | 50時間 | 約4~5万円 |
※上記の表に加えて、これとは別に「医療的ケア」の演習が必要
ご覧のように、無資格者の場合は450時間以上の研修時間が必要となり、費用は約10~20万円程度かかります(費用は養成スクールによって異なります)。「介護職員初任者研修」「ホームヘルパー2級1級」「介護職員基礎研修」のような関連資格を保有していれば、研修時間、費用共に一段抑えることが可能です。
介護福祉士の前提資格となる
実務者研修を受講する大きなメリットとして、「介護福祉士」の受験資格を得られることが挙げられます。
介護福祉士は介護分野で唯一の国家資格であり、受験をするには受験資格を満たす必要があります。介護福祉士の受験資格を満たす上でポピュラーなルートとなる「実務経験ルート」では、2015年以降、3年以上の実務経験に加え、この実務者研修の受講が必須となっています。
こうした理由により、将来、介護福祉士を取得することを目的として、実務者研修を受講する人も多いのです。
実務者研修の「受講方法」を詳しく解説
それでは介護福祉士実務者研修を受講する場合、どのように進めればよいのでしょう。
ここでは、実務者研修の受講の流れについて、以下3つの観点から詳しく解説します。
- 受講できる場所
- 学び方
- 合格率について
受講できる場所
実務者研修は、厚生労働省より指定を受けた養成スクール(養成施設)で受講することができます。
全国各地に沢山の養成スクールがありますが、受講地域に制限はないため、現住所などに縛られず自分の好きなスクールで学ぶことができます。ただし、スクーリング授業などで定期的に通学が発生するため、特段な理由がなければ、自宅に近いスクールがおすすめです。
なお、私たち「土屋ケアカレッジ」でも実務者研修講座を開催しております。受講料は89,900円(税込)という割安な水準で設定しており(無資格者の場合)、受講者の方々からもご好評を頂いております。
学び方
実務者研修は、「通学」と「通信」を併用して学ぶことができます、ただし、科目によって学び方に決まりが設けられています。
「介護過程Ⅲ(45時間)+医療的ケア」の科目に関しては、通学が必須となっており、スクールの教室にて実技演習となるスクーリング授業を受講することになります。
それ以外の405時間分の科目は、通信での学習が認められています。テキストやWEBなどを使い、自宅や図書館など好きな場所で学ぶことができます。
学習方法 | 学習内容 |
---|---|
通学(スクーリング授業) | 介護過程Ⅲ(45時間)+医療的ケア |
通信 | 上記以外の科目(405時間) |
合格率について
実務者研修は、修了試験実施に関する規定がありません。そのため、修了試験自体がないスクールも存在します。修了試験があるスクールでも、試験の方法や難易度などはスクールによって異なります。また、合格率などを公開しているスクールも少ないため、実態は把握しにくい面があります。
その上での一般的な話として、合格率はほぼ100%といわれることが多いです。
スクール側も落とすためではなく理解度をはかるために修了試験を行うケースが多く、また不合格となっても追試を繰り返し受けられるスクールが大半であるため、投げ出さずに努力すれば合格できるのが一般的です。
ハローワークトレーニングで受講する方法もあり
ハローワーク(公共職業安定所)が開催する「ハローワークトレーニング(職業訓練)」として実務者研修を受講する方法もあります。
ハローワークトレーニングとして受講すれば、研修に掛かる費用が無料となります(テキスト代などは実費)。さらに条件を満たせば「職業訓練受講手当」として月10万円が受け取れることもあります。
ただし、ハローワークトレーニングの実務者研修は、以下のように民間の養成スクールの実務者研修とはいくつか異なる部分があります。
- 対象となるのは失業中の休業者や、雇用保険被保険者でない人(フリーランスや自営業者など)
- 講座の数自体が少ない(開催されていない都道府県もある)
- 面接や筆記試験による選考があり、合格した人のみ受講できる
- 通学が主体となり、平日の朝9時~夕方17時頃に毎日通学することになる など
ハローワークトレーニングの実務者研修は、民間の養成スクールの実務者研修のように誰でも入学ができるわけではありません。また平日昼間に通学する必要もあるため、万人向けではないことを覚えておく必要があります。
実務者研修に関するQ&A
最後に、実務者研修に関する疑問点などをQ&A形式で回答していきます。
実務者研修を受講するメリットは?
実務者研修を受講することでのメリットや恩恵として、以下が挙げられます。
- 介護福祉士の受験資格を得られる
- サービス提供責任者(サ責)の資格要件を満たせる
- 介護に対しての理解が深まる
- スキルアップになる
- 就職や転職の選考で有利になりやすい・「資格手当」がつき、給料が底上げされることがある など
「介護福祉士」や「サービス提供責任者」へのキャリアアップに繋げられることが、実務者研修を受講することでの特に大きなメリットです。また、スキルアップ、給料アップを目的として実務者研修を受ける人もいます。
実務者研修を受講しなくても介護職として働いていける?
特別養護老人ホームや訪問介護の介護職求人では、実務者研修の資格が必須となっていることがあります。ただしすべての求人がそうであるわけではなく、未経験者や無資格者でも働ける介護職求人もあります。
つまり介護職として働く上で実務者研修は必ず必要となる資格ではなく、実務者研修を受講せずに、長年介護現場で働いている方もいます。
費用を安くするには?
以下のような補助制度を活用することで、実務者研修に掛かる費用を安くできることがあります。
- 教育訓練給付制度
- 自治体の補助制度
- 母子家庭に対する補助金
- スクールの補助
- 会社の補助
- ハローワークトレーニング など
国が用意する補助制度である「教育訓練給付制度」や、自治体側で用意している補助制度を活用するのがポピュラーな手段です。すでに介護職として働いている場合は、勤務先の会社(施設)側が費用の一部を補助をしてくれることもあります。
実務者研修の補助制度については、こちらの記事で詳しくまとめていますので併せてご確認ください。
初任者研修と実務者研修どちらを受講するべき?
初任者研修と実務者研修は、どちらも受講するにあたって実務経験などは問われないため、未経験者であっても好きな方を受講できます。
なお、初任者研修は、位置づけ的に実務者研修の下位にあたる研修であり、研修時間は130時間とされています。そして初任者研修を受講したあとに実務者研修を受講した場合、初任者研修の130時間分が免除され、実務者研修の受講時間は450時間から320時間に短縮されます。
したがって、まず先に初任者研修を受講しておき、いずれ時間ができたら実務者研修を320時間に短縮した上で受講するというルートも描けます。ただしそのように別々に受講すると、費用的には割高となってしまうケースが多いため、その点は注意が必要です。
実務者研修は介護職として長く働きたい方にはピッタリの資格!
実務者研修は、体系的に介護を学べ、上位資格の介護福祉士の受験にも繋げられるため、介護分野でキャリアを積んでいく意欲のある人には恩恵の大きい資格といえるでしょう。受講条件も特に設けられておらず、異業種の人や学生でも受講ができるため、介護職へ転職する前に受講しておくのもおすすめです。
ただし、長期間勉強の日々が続くことになり、費用も無資格者の場合は10~20万円掛かります。手軽に取得できる資格ではないため、受講する場合は、前もってしっかりと準備や計画を立てておくことが大切です。